第189話 とある村の危機
数日後、シンとルメヤ達はオサーカスの街に旅立つ事になった。
タウロとエアリスは、笑顔で見送る事が出来た。
お互い納得しての別れだった。
シンとルメヤはあちらでも成功するだろう。
それだけの実力があるし、性格的にも向いている。
あのコンビの相性は、前衛として優秀だから今後も評価されるに違いない。
見送ったタウロとエアリスは数日は休む事にした。
エアリスもいくら笑顔で見送ったとはいえ、喪失感はぬぐえない。
数日は休みが必要だった。
タウロは、マーチェス商会に足を運び、商談に時間を使った。
そんな中、二日目からは、エアリスもその商談に付いてきた。
一人でいるのが嫌だという理由だったが、数日商談が続くとエアリスも元気が戻ってくるのがわかった。
これならもう大丈夫だろう。
見送りから六日目の朝、エアリスもいつものエアリスに戻ったので、そろそろ冒険者ギルドに顔を出そうかという事になった。
ギルドに向かう途上、
「こんな事なら、あの時あったラグーネさんに付いて行って竜人族の村に行ってみれば良かったわね」
と、エアリスがもしもの話をした。
「ああ、竜人族のあの人か。まだ、別れて一週間だから村に向かってる最中だね。確かに竜人族の村に行く機会ってないから付いて行けてたらいい経験になったかもね」
「でしょ?それに、あの人、前衛として優秀そうだったから仲間に誘えば良かったわ。」
「そうだね。ははは。『竜騎士』という貴重なスキル持ちだし、人が良さそうだったから、それも有りだったかもね」
タウロとエアリスはとめどない会話をしながら冒険者ギルドに到着した。
二人が冒険者ギルドに入ると、室内はざわついていた。
「どうしたのかしら?」
エアリスが、約一週間ぶりの冒険者ギルドの雰囲気がピリついている事に気づいた。
冒険者達の話に聞き耳を立てると、オーガという名前が上がっていた。
オーガとは鬼の様な容姿をした魔物だ。
その習性は武器を持ち、鎧に身を纏い、戦士然としていて、戦う事を喜びとしている厄介な相手だ。
「オーガが出たんですか?」
タウロは丁度手が空いた受付嬢のカンヌに聞いた。
「はい。近隣の村でオーガの群れが目撃されたそうです」
「群れですか?珍しいですね」
「目撃報告では、五体程度ですが、まだ、他にもいそうだという事で次の報告を待ってるところなんです」
オーガは確かCランク帯の討伐対象だ。
この村で今、そのCランク帯以上の冒険者チームはBランクのチームが一組、Cランク帯チームが二組いる。
あとは、Dランク帯が4組、あとはEランク帯がほとんどだ。
個人では、最近、スピード出世でC-ランクに上がったばかりの犬人族のボブさんが目立っている。
戦力を考えると、オーガの数にもよるが、Bランクチームがいるので、安心できそうだ。
「じゃあ、今いるBランクチームとCランク帯チーム二組の計三組で大丈夫ですよね?」
普通にそう考えたタウロだったが、なぜ、ギルド内の空気に緊張感が漂っているのかわからなかった。
「その、BランクチームとCランク帯チーム一組が今、留守にしてるんだよ」
冒険者の一人が、タウロの楽観論に反応した。
「え?今、いないんですか!?」
「BチームとC+チームは、ダレーダーの街の冒険者ギルドが近隣に緊急招集した大規模なトロールキング討伐戦に参加して留守だ」
「じゃあ、残ってるのは……Cチームの『牙狼』の三人と、個人で活動してるボブさんを含めた三人の計六人だけですか?」
「そういうこった。それにCチーム『牙狼』は魔法系メンバー無しの、脳筋チームだ。オーガは魔法攻撃に弱いが、物理攻撃にはめっぽう強い。個人で活動してる三人も脳筋系だからな。この六人で当初の報告の五体を相手にするのがやっとだろう。他に何体いるかによってはこのギルドから助けに行けるかどうかも怪しいものさ」
そうなると、話は変わってくる。
支部長のクロエの判断にもよるが、Dランク帯、Eランク帯の魔法系攻撃が使える者も招集されるかもしれない。
そこに、ギルドに報告の為に慌てて飛び込んできた冒険者がいた。
「近隣の村の近くに現れたオーガは、最初の五体の他に十八体確認。計二十三体です!」
ギルド内に絶望のため息が漏れた。
今のギルドの許容範囲を越えている。
残された現在の戦力のCチーム『牙狼』と、ボブ達Cランク帯三人を送り込んだら全滅する可能性の方が圧倒的に高い。
支部長であるクロエが、その報告を聞くと、沈黙した。
冒険者達もその沈黙に口を閉ざし、室内に緊張が改めて走った。
「……村を見捨てるわけにはいかないわ。これからダンサス支部は総力戦に入ります。Eランク以上の冒険者で、特に魔法攻撃が出来る者を中心にチームを編成します。『牙狼』チームに、E+の魔法使いマージさん、治癒士のホーリさんでチームを組んで下さい。同じくCランク帯の3人にE+のエアリスちゃん、後は……」
クロエが誰にしようかと考え、口にしようとすると、
「僕も魔法攻撃が可能なので、エアリスと一緒にいいですか?」
と、タウロが挙手するのだった。
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