第159話 魔道具の商談

 エアリスの後見人の決定発表は後日大々的に行われる事が決定した。

 貴族社会ではヴァンダイン家のお家騒動は、今では有名になっていたので、関心事だったのだ。


 これには、タウロもホッとした。


 面会してきた貴族達は一長一短があり過ぎて、選べないでいたのだ。

 みな、ヴァンダイン家へ恩を売り、ゆくゆくは自分の属する勢力に組み込もうと虎視眈々と狙っていた。


 タウロは当初、宰相派閥から後見人を選べないかと思っていたのだが、この件に関しては、宰相派閥は沈黙していた。

 人脈を使って宰相閣下バリエーラ公爵その人にも接触を求めたが、この件に関してはなしのつぶてだった。


 なので当てにしていた人脈が使えず、後見人探しで苦労する事になったのだが、それがこれ以上ない形でベストの人選と言うべき王家からの申し出で実を結んだのだった。


 これには、余談があり、王家で話題になったのは宰相閣下が国王とリバーシの最中に話を振ったからだった。

 宰相閣下が、タウロと面会しなかったのは、もし、会っていたらタウロが目を付けられ派閥争いに巻き込まれる事になりかねないと判断したからなのだが、さすがのタウロもそれを知るのは少し先の事になる。



 後見人の決定で一気に形勢は逆転した。

 これでヴァンダイン侯爵夫人は完全にエアリスに手を出せなくなったのだった。

 発表前にも関わらず、貴族達の間ではすでに噂になっていた。


 あくまで憶測の域を出ないが王族が後見人になる可能性があるらしい、というものだったが、その噂だけでも牽制になるだろう。


 やっとエアリスの身が安全になりそうでタウロはようやく安心した。

 それに、タウロの財産も底を尽きかけていた。

 貴族相手は、会うだけでも沢山お金がかかったのだ。

 何気にお金持ちだったタウロの財産は今回の件で飲み込まれ貧乏にまっしぐらだったから、無くなる前に解決したのは良かった。


 宿屋で今後の出費を計算していると、ガーフィッシュ商会から、面会要請が来た。


 タウロの作った魔道具『ランタン』とスライムの体液を使用した『濡れない布』の商品化についての相談らしい。


「お金が無いタイミングで相談って……、計算してたんじゃないよね?」


 タウロはガーフィッシュ商会代表マーダイの豪快に笑う顔を思い出しつつ、やはり商人としての嗅覚で今のタイミングを狙ったのでは……、と勘繰ってしまうのであった。



「──ランタンの価格はそういう事で決定ですね。生産についてはすでに大手工房を数か所押さえました。タウロ殿の了解を得られればすぐにも稼働します」


 商会を訪れたタウロは、早速、商談に入り、ガーフィッシュ商会代表マーダイ自身から熱の籠もった説明を受けてタウロは圧されていた。


 その場にエアリスはいない。

 エアリスはいつもの様についてこようとしたのだが、後見人発表までは大人しくして貰う事にしたのだ。

 当人はタウロに迷惑をかけているのをわかっているから渋々だが納得してくれた。


 話は戻り、マーダイの勢いに、ランタンの単価もマーダイの提案で安価に設定された。

 つまり、薄利多売でやっと利益が出るという事なので当分はタウロは貧乏なままだ。

 一応、契約金という形でまとまったお金は貰えるが、まだ当分王都には滞在するので貴族の相手もしなくてはならなそうだからそちらに飛んでいきそうな予感がした。


「わかりました。それでは革新技術部品は、特殊契約を交わした一つの工房のみでそれ以外の部分は他の工房が請け負うという事でいいですね?」


「はい、タウロ殿。提案通り、工房には部品別に製造させて、組み立てはうちの商会傘下の工房でする予定です。このやり方なら従来の一から十まで一つの工房で作って貰うより生産性が一気に上がりそうです。この様なやり方があるとは……、画期的ですな!」


「このやり方なら、一から十まで技術を教えなくて済みますから、人手を増やすのも容易になります」


「では、早速、生産を開始します。おい!誰か!」


 マーダイは使用人を呼び、各工房への伝言を頼むとすぐ向かわせるのだった。


 マーダイは、改めてこの魔道具の『ランタン』を絶賛した。


「タウロ殿、この『ランタン』はリバーシ以上の大ヒットになると思っています。うちとマーチェス商会のみでの独占契約できた事は幸いです」


「そうなればいいですね」


「いえ、これは、絶対売れます!灯りを必要としない家庭はありません。これまでの油を使ったランタンは淘汰され、この新しい魔道具『ランタン』が、世界を席巻するんです!これは革命ですよ!」


 大袈裟にも聞こえるが、大商人であるマーダイが言うのだ、そこまで言われるとそんな気がしてきたタウロであった。

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