第153話 道すがらに危機

 宿屋を出たタウロは大通りに出ると短距離乗り合い馬車の停留所まで歩いた。

 周囲には人が多く、まるでお祭りの様だ。

 これが普段なのだからやはり王都の人口密度は凄いとしか言いようがない。

 ふと、視界に入った人達に違和感を感じた。


 この人混みなので『気配察知』もあまり役に立たないのだが、一瞬視界に入った人が『気配察知』に引っ掛かっていない事に無意識に気づいたのだ。


 それはつまり、感知阻害系をこの瞬間使ってる人物。

 それも、タウロが熟練度を上げている『気配察知』に引っ掛からない程の阻害系となると頭に咄嗟に浮かんだのはヴァンダイン侯爵屋敷で目撃されたという実力者だった。


 タウロは思わず、周囲を見渡す。


「いない……か」


 ホッとした時だった。

 首筋にチクッとする痛みが走った。


「いたっ!」


 タウロは首元に手をやると細い針が刺さっていた。


「やばい……!」


 何が、とは思う瞬間は無く、すぐさま針を抜くと『状態異常回復』を自分に唱え様とした瞬間だった。


 タウロは激しい痙攣に襲われて一気に血の気が引き、その場に倒れ込んだ。


 これは致死性の猛毒だ!


 急速に意識が遠のく中、タウロは最後の気力を振り絞って『状態異常回復』魔法を唱えて視界は暗転した。



 タウロの周囲では子供が痙攣しながら倒れたのだ、ただ事では無いと、歩み寄る人々がいた。


 そして、それを取り囲む人々。


 その中には、笑みを浮かべて立ち去る者もいた。


 だが、周囲は痙攣して泡をふき、動かなくなる子供に気を取られ、その者に気づく人は無かった。


「……これは、助かる顔色じゃねぇ」


「もう、死相が出てやがる」


「……駄目だ。もう、心臓が動いてない……」


 倒れた子供に駆け寄った人々はこの絶望的な状況に匙を投げた時だった。


 どくん


 タウロの止まった心臓が微かに脈打った。


『状態異常耐性』と、それを少し強化する『闇の精霊の加護(弱)』で猛毒に抵抗し、『状態異常回復』魔法で猛毒を中和し『超回復再生』で猛毒に破壊された細胞を回復したのだが、それでもタウロの死はギリギリ避けられなかったかもしれない。


 だが、これはタウロも知る由もなかったが、新たに覚えた能力『幸運』の補正によって、『死』の側から、『生』の側に紙一重で切り替わり、回復が間に合ったのだった。


「誰か近くの衛兵を呼んできてくれ、この子供の死亡確認をして貰わないと動かすわけにもいかないだろう」


「……おい?何か顔色が良くなってきてないか?」


「そんな馬鹿な──、……え?本当だ……!誰か医者だ!いや、俺が運べばいいのか!」


 通行人はタウロを抱き上げると慌てふためいたが、他の通行人が、「診療所はあっちだよ!」と声をかけると、囲んでいた群衆も道を作って誘導する。


 通行人はタウロを抱きかかえて診療所まで走って運ぶのだった。




 目が覚めるとタウロは寝台に横になっていた。


 そこに『世界の声』が聞こえてきた。


「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<毒の猛威から生き延びし者>を確認。[毒完全耐性]を取得しました」


 今は、『世界の声』を無視する事にした。


 病院特有の薬品の匂いがする。

 どうやら自分は、診療所に運び込まれた様だ、と理解するのに時間はかからかった。


 ……危なかった、……死んでてもおかしくなかった!


 体を起こすとタウロは内心安堵した。


「先生、患者さんの目が覚めました」


 助手と思われる女性が医者に声をかける。


「君は、道で気を失ったそうだよ。君を運び込んできた人の証言だと心臓は止まり、死んでいたらしいが、ここに来た時には青ざめて顔色は悪かったが、そこまでではなかったから、その人の勘違いだろうね。多分、一時的な貧血だろう」


 タウロの顔色を確認した医者は、そう言うと、


「うちは治癒院と違うから、魔法治療をやってない。もう、大丈夫だと思うが薬を出すかい?」


 と、聞いてきた。


「あ、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。僕を運び込んでくれた方は?」


 タウロは寝台から起き上がると答え、聞き返した。


「ああ、もう、帰ったよ」


「そうですか……。あ、おいくらになりますか?」


「何もしてないからお代はいいよ。気を付けて帰りなさい」


 医者はそう言うと、診察室に引っ込んでいった。


 タウロはお礼を言うと診療所から外へ出た。


 外はもう、夕暮れ時だった。


 タウロは少し、ふらついて空を眺めていたが、ふとある事に気づいた。


「あ、フルーエ王子を待たせてるんだった!」


 タウロは慌てると、小剣を手にして敏捷補正を使い、王城に走って向かうのだった。

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