第142話 休止して王都へ
タウロの返答に、一同は驚き、一瞬考え込むとやはり、理解が追いつかず、
「「「何で王都?」」」
という、疑問に辿り着いた。
「それに『黒金の翼』を休止ってなんでなの?」
エアリスが代表してタウロに質問した。
「休止は単純な話で、もし、僕達と一緒にシンとルメヤが王都に行くと、収入がゼロになるから。それどころか王都に行ったらどれだけ支出があるか正直予想できないから、二人はこっちで冒険者業を続けて生活費を稼いで下さい」
「二人も条件は一緒じゃないのかよ?」
ルメヤが不服そうに言った。
「一応、王都にはボクの人脈があるからそれを利用するには、本人である僕が行かないわけにはいかないでしょ?エアリスは当人だから当然だし。本当なら二人には護衛役をお願いしたいところだけど、さっきも言った様に、どのくらい出費が嵩むかわからないから、二人の生活費までは保証できないし、二人も普通に働かないと生活できなくなるでしょ?」
と、タウロは表向きの理由を指摘した。
これに二人は何も言えなくなった。
タウロの指摘の通り、貯金があると言っても、そこまでお金があるわけではなかった。
収入ゼロになると、旅費だけで貯金は尽きてしまうだろう。
そうなると二人の足を引っ張る事になる。
裏の理由は貴族の問題に二人を巻き込むのは危険と判断したからだが、それは、タウロは言わなかった。
それでは二人は納得しないと思ったからだ。
「でも、何でヴァンダイン侯爵領ではなく、王都なの?」
今度はエアリスが質問した。
「それも簡単。わざわざ最大限、権力を行使できる相手の領地に行く必要性がないから」
自領では、領主が一番偉いのだ。
そんなところに乗り込んでも、問答無用でエアリスは連れ戻され監禁され自分は裁かれるだけだ、その権力の一方的な力の怖さはタウロが一番痛感している。
相手の土俵に上がって不利な戦いをするのは愚の骨頂だった。
「でも、王都に行っても、ヴァンダイン侯爵家のお家騒動に介入できる貴族なんてそういないわ。それどころか私達を相手にする貴族自体いないと思う」
エアリスが自分が絶望的な戦いにタウロを巻き込んだ事を、言いながら感じ始めていた。
「そこは、やってみないとわからないよ。僕もどこまで力になれるかわからないけど、出来る事はやると決めたから」
タウロは、そう言うとエアリスの肩に手を置いた。
「……ありがとうタウロ。……シンとルメヤは、お留守番をお願い。その間、二人が『黒金の翼』だからちゃんと頑張ってよね!」
エアリスはタウロに励まされると、力強くシンとルメヤに発破をかけた。
「お、おう!『黒金の翼』は、俺達が守るから安心して行ってきな!」
「ヤバくなったら、逃げてきなよ?」
ルメヤとシンは残る事に納得してくれたのだった。
タウロはシンにお願いして馬車の準備と、手紙を特別料金と共に配達屋に渡して貰った。
配達屋は通常、一定数荷物を集めて利益が見込めるまで動かないからだ。
タウロはその辺りは出し惜しみしなかった。
タウロとエアリスが王都へ向かう為の準備をしていると、家の表がざわつき始めた。
「──ここにエアリス嬢がいる事は調べてわかっているのだ。素直に出せ!」
「ああ?ここは俺の家じゃないから、言われても出しようがないんだよ!」
「じゃあ、どかぬか!」
「あんたに命令される筋合いはないね!」
ウワーキンとルメヤが揉めているのが室内に聞こえてきた。
「吾輩はヴァンダイン侯爵(になる予定)だぞ!お前達この無礼者を排除するのだ!」
「誰がヴァンダイン侯爵でしょうか?噂ではあなたは子爵の次男と聞いています。つまり爵位がない者のはず。それがヴァンダイン侯爵を騙ったとあっては、これは見過ごせませんよ?貴族を騙る者はこの国では死罪を意味する。それは重々承知してますよね!?」
タウロが家から出ていくと、ウワーキンの失言の尻尾を掴んで叱責した。
それと同時に、能力『威光』を発動する。
ウワーキンはまだ子供であるタウロの迫力に圧倒された。
腰を抜かして座り込むと、失禁した。
「……そ、そ、それは……、こ、言葉の綾で騙るつもりはなかったのだ……!お、お前達、手を貸せ、帰るぞ!」
ウワーキンは兵士に両肩を持たれると囚われた宇宙人の様に連れていかれるのであった。
見ていたルメヤは、
「あの野郎、タウロの迫力に失禁してたぞ!」
と、痛快とばかり大笑いした。
「よし、今の内にシンが準備してる馬車で村を出るよ。ルメヤ、後はよろしくね」
ルメヤに家と、『黒金の翼』をお願いすると、タウロは室内にいるエアリスに声をかける。
「わかった。しばらくの別れだな」
ルメヤが手を振る姿を背に、タウロとエアリスは走り出すのだった。
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