第91話 革新技術は盗ませない

 冷蔵庫の製作はマーチェスに職人達の間に入って貰って調整しながら試作品を作って貰う事にした。


 それが完成したら商業ギルドに持ち込んで特許登録をする。


 タウロの板を貼り付けた内側に描いた魔法陣には細工がしてある。

 上と下にそれぞれ魔法陣があり、重ねる事で能力を発揮し、重ねた板を剥がすと消えてしまうというものだ。

 なので、盗作防止になるはずだ。


 職人達とはエアリスの提案で魔法による契約を結んだので、そこから情報漏えいする事は難しいらしい。

 なんでも、『神官』スキルの魔法のひとつだそうだ。

 意外なところでエアリスが役にたってくれた。



 この冷蔵庫の良いところは、クズ魔石で十分稼働してくれる事だ。

 クズ魔石とは、加工にあまり向かない小さい魔石の事で、Fランクのクエストで弱い魔物からよく手に入る。

 それでも、使い道はあるのでギルドが買い取ってくれているが、小さ過ぎるものもあり、取引では二束三文の価値しか無い時もある。


 なので、それらを冷蔵庫の上についてる魔石補充用スペースの蓋を開けて入れると、稼働してくれるので燃費効率は良いだろう。


 一応、魔法陣の技術料と、職人達の技術、材料費を加えると冷蔵庫はそこそこの値段になるだろうが、使い続ければすぐに元が取れる。


 これまで、腐らせて廃棄する食糧はあっただろうし、冷やす事で美味しく頂けるものも世の中にはいっぱいある。


 なのでタウロは家庭用の小さいものから、大きい業務用まで作る予定でいた。




 良いタイミングで、ダンサスの村に商業ギルドが出来た。

 この村の発展に伴い、将来が見込めると思われたのかもしれない。


 まだ、小さいが、特許登録も出来るという事なので、街まで出かけて行く手間が無くなるのは大きい。


 タウロは冷蔵庫の試作品が完成して、使ってみた結果、実際の利用に耐えれると判断したので、早速この新しい商業ギルドで登録する事にした。


 登録の際、担当したギルド職員はこの画期的な技術に驚き、冷蔵庫と登録者の代理人を名乗る少年とを見比べ、保証人のマーチェスに確認し、手続きはすぐ行われた。


 こうして革命的な製品、冷蔵庫は、名前だけは有名なタウロの仮の名前、リバーシ特別盤製作者ジーロ・シュガーの名で登録される事になった。

 ジーロ・シュガーの名は元々架空の名だったが、ガーフィッシュ商会代表が今後の事を考えて裏で手続きをして、正式に”実在”させている。

 なので、商業ギルドの審査にもちゃんと通ったのだった。




 冷蔵庫を扱うマーチェス商会と取引契約を結んだガーフィッシュ商会ダレーダー支部が早速、街の魔道具店に冷蔵庫を持って行くと魔道具店の反応は大きかった。

 何しろ魔石を加工しなくても魔石が使える製品だ。

 すぐに街のある魔道具店は一台を購入した。

 商会側は反応の割に一台だけの購入に疑問を抱いたが、何も言わずに販売した。

 そして、少し間を置いてその魔道具店から二台目の注文があった。

 一台目が売れたにしても、また一台だけという事に商会側は疑いを持ったが、また、何も言わずに販売した。


 商会側は店の小間使いに怪しい魔道具店に客を装って行かせると、店頭に冷蔵庫は並んでないと報告を受けた。


 やっぱりだ。


 ガーフィッシュ商会側は確信した。

 その魔道具店は販売せずに、冷蔵庫を分解しているのだと。


 あまりに革新的な技術なので、魔道具店はそれを解明しようとしているのだ。


 タウロの前もっての盗作防止技術に一台目はすぐに駄目になり、二台目を購入したのだろうが、タウロからの説明によれば、本人でも重ねて貼ったなら、確認のしようが無いらしい。

 なので、盗作される心配はないだろう。


 ただ、今後の取引は考えないといけない。

 店頭に置いてくれないなら優先する必要性が無い。

 他の小さい魔道具店や、直接、食品を扱うお店に売り込みに行った方が早そうだ。


 数日後、同じ魔道具店から三台目の注文があったが、店頭に並んでない事を店主に問いただし、答えられずにいる事を責め、取引を打ち切る事を宣言した。


 ガーフィッシュ商会を怒らせた魔道具店は、後日謝罪の為、連日商会に通う事になるのだった。

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