第73話 村の救世主
村に到着するとそこは戦場だった。
村人達はクワや棒、鎌を持って襲い掛かるキラーアントに抵抗していたが圧倒的な数の差に家族を守るのだけで必死だった。
そこに馬車が到着した。
その馬車の御者が、
「冒険者が助けに来たぞー!」
と、いうと、その声に誰もが振り返った。
颯爽と四人の冒険者が村に降り立つと子供を含めた三人が白い粉末を宙に撒き始めた。
そこに、リーダーと思わしき冒険者が風魔法でその粉末を巻き上げてキラーアントの群れに攻撃を始めた。
キラーアントの群れは次々にもがき苦しみ始めると絶命していく。
まるで、奇跡を目撃してるような鮮やかさだった。
冒険者の男が風を操ると次々にキラーアントは死んでいく。
その合間を子供が走り回って何かしてるが、村人の目にはそれは映っていなかった。
タウロは白い粉をマジック収納で回収し、一緒に入れた袋に戻してそれを出し、シンとルメヤに渡し、それを二人がまた宙に撒き、ボブが風魔法で操る。
たまにタウロから渡されるマジックポーションで魔力を回復しながらそれを続けた。
見る見るうちにキラーアントは討伐されていった。
まさに村人達は魔法を見せられた。
村を任された騎士爵様と一緒にあれほどまでに苦労して倒していた魔物が一人の冒険者の奇跡の様な魔法でキラーアントは駆逐されていったのだ。
まさに救世主だった。
村人達は冒険者に詰め寄ると、みなが感謝を述べた。
連れの子供の冒険者に聞くと、噂に聞いたダンサスの村を救った犬人族のボブという冒険者だそうだ。
本人は謙遜して「自分は風を起こしただけだから」と言う。
なんと素晴らしい人格の持ち主だろう。
驕るところが全くない。
自分はきっと、英雄を目撃しているに違いない。
村人達は心からこの救世主に感謝するのだった。
「村を襲うキラーアントの数を目の当たりにした時はさすがに絶望しそうだったよ」
ルメヤが正直な感想を口にした。
「いや、自分もそうだよ。あの時冷静だったのはボブさんとタウロ君の二人だけだった。それに、自分達は粉末を撒くだけだったし」
あまりに呆気なくキラーアントの群れを討伐した。
忙しかったのは前準備の時だけで、あとは風魔法を使っていたボブ、時折粉末を回収していたタウロの二人だけが忙しかった。
「俺達は粉末を撒くだけだったな」
「でも、役割ってものがあるとタウロ君も言ってたろ」
「だな。感謝されるのは嬉しいけど、ボブさんみたいに村人達に、揉みくちゃにされたくはないな」
二人の視線の先には、まさに村人達に囲まれて困り果てるボブの姿だった。
これだけの群れだ、キラーアントクイーンが居てもおかしくないはず。
タウロはキラーアントの死骸を確認して回った。
その予想は的中し、村の外れにクイーンはいた。
ひと際大きく1メートル近くあるだろうか?前足には杖が握られている。
魔法が使えるのかもしれない。
大分弱っているが、逃がすわけにはいかない。
後日また繁殖して襲ってこないとも限らなかった。
タウロはすぐに闇魔法の『麻痺』でクイーンの動きを封じると、静かにトドメを刺した。
討伐証明である、片方の触角と魔石も回収する。
これで、この村の危機は去ったはずだ、後は帰って報告すれば任務完了だった。
だが、今日は帰れそうにないかもしれない。
村人とこの村の責任者である騎士爵がお礼の宴を準備し始めているのだ。
ボブは冒険者だから当然の事をしただけと断っているが、準備はどんどん進んでいる。
ボブを置いて帰るわけにもいかないし、今日は泊まる事になりそうだ。
ボブは宴会でも、持てはやされた。
騎士爵とは意気投合したようで、話が弾んでいた。
やはりボブは、ただ者じゃない。
何だかんだでこの状況を受け入れて楽しんでいる。
シンとルメヤはお酒を飲んで酔っ払っていたが村人達のテンションにはついて行けずにいた。
タウロは子供なので、お酒を飲んでいないので冷静そのものだったが、村人達の喜びようを楽しんでいた。
自分達はこの人達の役に立ったのだ。
こういう時が冒険者冥利に尽きると思うタウロであった。
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