第68話 新人が死にそうです

 ダンサスの村には今、シンの他にもう一人、新人がいた。


 シンから遅れる事、3日でF-ランクに上がってきた黒い長髪を後ろで結び黒い瞳、大柄の十九歳、ルメヤだ。


 故郷の村では力持ちで有名だったようで、少しばかり自信をもっていた。

 その為か血気盛んで最初に受けたクエストは一角うさぎ討伐。

 その後もキラーアントやコボルトの討伐なども積極的に受けていた。


 なのでFランクの基本、薬草採取には目もくれず、それを日頃やっているタウロとシンを小馬鹿にしている雰囲気があった。



 そんな事にはタウロはすぐ『気配察知』で気づいていたが相手にせず、タウロはシンに鍛冶屋で一本、剣を買って渡して薬草採取の合間に剣の扱いについて教えていた。

 聞けば剣使いのスキルを持っているのに、鍛錬しておらず、自前の剣すら持ってなかったからだ。


 タウロは一応、以前いたサイーシの街の冒険者ギルドで、ほとんどの武術を学んで熟練度を上げている。

 なので人並みにはほとんどの武器を使えた。


 シンは、十八歳にも拘わらず、年下のタウロから教わる事に抵抗がない。

 逆に積極的なぐらいだ。


 本人が言うには、自分はまだ知らない事ばかりで、タウロは色々知っている。

 それを教えて貰うのだから、自分は頭を下げて学ぶべき立場で、年齢は関係ないそうだ。


 そんな新人二人に違う特徴がでてきたある日、新人のルメヤが森でゴブリンに遭遇した。


 タウロは最初、誰かわからない冒険者がゴブリンと遭遇した事は『気配察知』で気づいていたが、逃げないのを感じると上のランクの冒険者だと思って安心していた。


 しかし、複数のゴブリンに囲まれるシルエットがタウロの能力である『真眼』に映った。

 そこで立ち回りが素人に視えた。

 それを無視するほど、戦いに自信があるのか、それとも……、と頭を巡らしたところで、このシルエットは新人のルメヤではないかという結論に至った。


 一緒にいたシンに、少しこの場を離れると告げると、ルメヤのいる方向に走った。


 ゴブリンのシルエットが背後からルメヤ?のシルエットを襲う。

 ナイフで刺した様だ、ルメヤのシルエットは崩れる様に片膝をつくのがわかった。


 ゴブリンは五体!


 数を確認したタウロは茂みを突き抜けるとルメヤとゴブリンを視認。


 背後を見せていたゴブリンの背中から心臓を小剣で一突きして倒すと、『威光』で他のゴブリンの動きを止め、闇魔法でさらに能力を低下させ、近くのゴブリンから次々に突き倒してゴブリンに為す術も与えぬまま、あっという間に勝負はついた。


 ゴブリンの死を確認するとタウロはすぐに気を失っているルメヤにポーションをかけた。

 背後から刺された傷、頭部や体には打撃痕が複数。

 右腕もこん棒で殴られて折られたようだ。

 ポーションだけではすぐに治りそうにない怪我だ。


「そうだ、試しにあれを使ってみよう」


 あれとはこの村に来てからずっと調合を続けていたが、苦心の末にようやく出来た中級ポーションだ。

 普通のポーションよりは効果があるはずだ。


 ルメヤに早速、かけてみた。


 刺し傷がみるみる治っていく。

 打撃痕も同じくだ。


 だが、さすがに骨折は無理の様だった、タウロはそれを確認すると一端シンを呼びに戻り、二人で村までルメヤを運ぶのであった。




 医療所でルメヤは右腕の治療中に痛みで目を覚ました。


 生きている?


 ルメヤは呆然とした。


 意識を失う前の記憶は、背後からゴブリンに刺され、激痛に膝をついたところまでで、自分は死ぬと覚悟する間も無かったように思える。

 というのも頭を強く殴打されたらしく前後の記憶が飛んでいて後はよく覚えてないのだ。


 医者が言うには腕の骨折の他に体中殴打され、頭部なども怪我したらしいが近くの冒険者がポーションで治療してくれたらしい。

 刺された箇所はまだ微かに痛みがあるが、傷は塞がっていた。


「この治り方はただのポーションじゃないな。きっとその上の中級ポーションだろう。そんな貴重なものを使って助けて貰った事を感謝しなさい。助けがなければ、今頃君は死んでいたよ」


 ルメヤはゾッとした、死ぬことなんて想像もしていなかった。

 自分は他の奴より優れていて輝かしい成功が待っていると思っていたのだ。

 その自信から、死とは縁遠いと思っていた自分が恥ずかしかった。


「……助けてくれた冒険者は誰ですか?」


 助けてくれた冒険者にお礼を言わないといけない、貴重な中級ポーションまで使って救ってくれたのだ、命の恩人だった。


「君を連れてきたのは、タウロ君と新人のシンって子だったかな確か」


 自分が見下していた二人だ。

 一層、ルメヤは自分が思いあがっていた事を痛感するのであった。

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