第30話 王都までの道中
王都への出発の日。
「なんだ、タウロ。仕立屋で作って貰った一張羅は着てないのか?」
見送りの支部長レオがからかう様に言った。
「服作ったのタウロ君!?ちょっと言ってよ。見たかったのに」
ネイが興味を持った。
「ははは……。あれ、貴族のお相手用の正装なので、着て旅する様な物じゃないですよ」
完成した物を前日、試着したが、息は詰まるし、派手だし、服に着せられてる感が凄くて思い出したくないタウロだった。
「それじゃ、お前ら、商隊の護衛と、タウロのお守りは頼んだぞ」
支部長レオが、C-ランクチーム『5本の矢』と、Dランクチーム「赤い閃光」、ソロのC-ランク冒険者に念を押した。
商会が雇った護衛が『5本の矢』の5人に、『赤い閃光』の4人、タウロ個人の護衛がソロの女性冒険者ミーナである。
商隊は馬車3台。
積み荷は大半がリバーシであるが、サイーシで産出されたミスリル鉱石もある、今やサイーシの稼ぎの大半を占める商品だ。
「王都までの旅の予定は一週間、それでは行きましょうか」
パウロが陣頭指揮を取ると商隊は出発した。
手を振るネイ、タウロも振り返したがみるみる遠のいていった。
初めての旅は順調だった。
やはり、街道を進むのが大きい。
街道付近は多くの人が往来するので、治安が良く一定の間に休憩所もあるのでそこに、兵も駐屯している。
タウロ的には、ファンタジーものの定番で、旅の途中、商隊が襲撃される事を想像していたが、その心配はなさそうだった。
タウロの護衛に付いてるミーナが言うには、街道から外れると治安は一気に悪くなるらしい。
なので、個人で村々を巡る行商人などは、危険も多いという。
ミーナはそういった商人の護衛などもやってるそうでその辺には詳しかった。
まだ19歳のソロ女性冒険者だがランクC-の腕利きであった。
そんなミーナは、長い赤髪のポニーテールに青い瞳、背は高く、片手剣に盾、弓矢を下げた冒険者の標準的な装備の女性で、武術教官ダズのところによく顔を出していたので、タウロとは顔馴染みだったが、こうして長く話すのは初めてだった。
「……前からやって来る男、怪しいですね」
タウロがぼそっとミーナにつぶやいた。
こちらをじっと見ている、通り過ぎる間際もひとりひとりを見ながら、馬車の積み荷にも視線を送っていた。
「値踏みしていたわね。鑑定持ちの盗賊の類かも」
「偵察かもしれませんね。街道で襲うのはリスクがあるはずですから、値踏みしてそれに見合うか計算するのでしょう。パウロさんが鑑定阻害(弱)スキルを持ってるそうなのでミスリルは見抜かれてないとは思いますが……」
「この商隊をどう見たと思う?」
「うーん。外見上は、たくさん積んだ馬車が3台。護衛は10人、御者が3人、パウロさんを含めた同乗者が3人に子供ひとり。17人の団体を襲うのにはそれなりの人数がいりますし、街道沿いでそのリスクを犯すかどうかですね」
休憩所につく半日の間、何事も無く時間は過ぎた。
どうやら、この商隊を襲うにはリスクが高いと判断されたのかもしれない。
休んでいると、表が騒がしくなっていた。
どうやら、手前の道中で盗賊が別の商隊を襲ったらしい。
襲われた商隊が助けを求めて、タウロ達のいる休憩所までひとり走らせたようだ。
駐屯していた兵達が馬に跨り隊列を組んで現場に疾駆していく。
間に合えばいいのだが……。
「……間に合わないかもね。勝算がなければ襲ってないわ」
タウロの心中を察したのだろうが、ミーナは冷静に現実的な事を告げた。
「……ですね」
現実はそう甘くはない、タウロの願いも虚しく、商隊は全滅し盗賊達は逃げおおせたという情報を翌朝、知る事になった。
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