悪魔は笑うことを許されない

美伶

第1話「私はここにいるよ」

____...(、れ、、_み  つ、て)


遠くの方で誰かが囁いてるが聞き取れない。

暗闇の中でか細い声が上から降ってくる。

声からして女性だ。

意識を声に向け、もう一度耳を傾ける。


___...(だ、  れ 、、み、けて)




ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッッー!!!!!


機械音が朝の6時を知らせた。暗闇の中から

一気に色のある世界に戻される。結局声は

何を発していたか分からなかった。

あれは霊に取り憑かれた人の助けの声なのか、霊自身の声なのか、それとも他の誰かの

声か_。

姫川 火月夜(ひめかわ かぐや)は上体を

起こしたまま先程の声を思い出していたが

このようなことは日常茶飯事なので特に

気にしてはいない。

彼女は霊媒師。霊と会話ができ、祓い、成仏することが出来る稀な人間。それ故に

助けを求める“内なる声”が彼女の脳内に

伝わることがある。

ただ今回の声は助けを求めるような焦りや怒りの様なものではなく、囁き声だったため、不思議に思った。


彼女のモーニングルーティーンは今流行りのスムージを飲んだり、ヨガをやって気持ちを整えたり、朝日を浴びて心を目覚めさせたり、、なんてことはしない。

事務的に起き、1日のスケジュールを確認しながらコーヒーを飲む。朝食は摂らない。

髪は鎖骨より上のショートヘアなため、髪のセットも特にこれといってしない。化粧も事務的に洗顔するだけ。今流行りのコスメなど興味もないのだ。

一通り身なりを整え時間があればTVのニュース番組を確認。今が旬の若手俳優が進行していると話題らしいが、火月夜にはどうでもいい。女子アナウンサーが笑顔でトークしていたがすぐに表情を無くし淡々と文字を読み上げた。

「続いての気になるニュースです。都内で男女の若者2人が何者かに後ろから鋭利な刃物で刺され重傷。男性1人が意識不明の重体、もう1人の女性は命に別状はなく、現在治療を行なっているそうです。えー、治療が終わり次第

事情聴取に入るとのことです。なお、犯行に使われた鋭利な刃物は現地ではまだ見つかっておらず、警察が監視カメラを確認し聞き取りを行いながら捜査を進めています。今回の事件で警察は連続通り魔事件と見て捜査を進めると表明しました。__...以上、気になるニュースでした。続いてはお天気のコーナーです。」


まただ。今回ので3件目。この一ヶ月同じ内容の事件が立て続けに起きている。被害者は全員男女の若者。それも男性側だけいつも重傷ときた。犯行に使われた凶器は見つからず監視カメラでも決定的な瞬間を捉えられてない。これはどう見ても怪しい。

恐らく今回も凶器は見つからないだろう。

そしてこれは人間ではなく、悪霊の仕業であると火月夜は残りのコーヒーを飲み干しながらそう思った。

だからといって自分が率先して祓いに行くことはできない。何事にも手順がある。許可なく単独行動は禁止されている。なので警察がお手上げ状態になったその時が霊媒師や除霊師たちが出てくるのだ。警察にもプライドがある。


火月夜はこれ以上被害が出ないうちにさっさと白旗を出せばいいのに、とシンクに流れ落ちる水を見て思った。

火月夜の朝はコップを洗うまでがモーニングルーティンだ。

家を出る5分前のこと。

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