第22話 ホストへの気持ちがわからないらしい。
俺が個人的にモヤモヤしているからと言って、仕事に支障をきたすわけにはいかない。
業務がひと段落したこともあり、24時前後に帰宅するというようなことはなくなったが、それでもだいたいが21時から23時の間だった。帰り支度をしながらスマホを見てみるが今日もスバルから連絡は来ておらず、俺はため息をつく。
「相川さん、どうしたんですか?」
「いや、全然、なんでもないっす……」
元気がない俺を見かねたのか、声をかけてくれたのは月島さんだった。彼は年下だが別の会社の人間なので、俺はいまだに一貫して敬語を使っている。それでもだいぶ距離は縮まり、いまでは一緒に仕事をしていなかったときのことを思い出せないくらい馴染んでいた。
「ならいいんですけど。喫煙所いかないなら下まで一緒に出ましょうよ」
「あ、タバコはさっき行って来たから大丈夫。出ましょう」
頷いて、オフィスの鍵をポケットから出した。俺と月島さんが最後なので、電気を消して戸締りをして出なくてはいけない。他愛ない話をしながら締め作業を済ませ、暗い廊下を通ってエレベーターに乗り込んだ。
「相川さんって本当に弱音吐かないですよね」
「いやあ、吐かないってわけでもないんですけど。意地はってんですよね~多分」
「でも、息抜きも大事ですよ。僕で良かったらいつでも話とか聞きますから」
その言葉に驚いて、まじまじと見つめてしまった。
「あ、いや……深い意味はないです。なんか、馴れ馴れしくてすいません」
凝視された意味を勘違いしたのか、月島さんが気まずそうに弁解したので俺は慌てた。
「いや、違うんです。月島さんって若いのに偉いなあと思って。モテますよね絶対」
「え!? 全然ですよ、僕なんか」
「俺、見習わないとなあと思います。真剣に……」
遠い目になりながらエレベーターから降りた。俺に足りないものはひょっとすると気遣いかもしれない。
見た目だって爽やかではないので、足りないのはそれだけではないけれど。
会社の入っているビルから出たとき、通りの向こうに佇むスバルを見つけて俺はのけぞった。
連絡もよこさなかったくせに、不意打ちで迎えに来てくれたらしい。驚きとともに嬉しさがこみ上げる。
「スバル!?」
名前を呼ぶと、こちらに気づいて大きく手を降って来た。隣に月島さんがいるのも忘れて振り返す。
車が来ないのを確認して、スバルが足早に通りを渡って来た。
「ごめん、急に来ちゃって。休みが振替になったから……あ、こんばんは!」
俺が一人ではないことに気づいたスバルが、ぺこりと頭を下げて挨拶した。俺はなんと紹介したものかと思いながら月島さんの方を見る。するとどういうわけか、彼は硬直していた。
「……スバルくん」
脱力したような彼の呼びかけに、スバルはなにかに気がついたような表情をした。
それから、なにかをこらえたようなよくわからない表情をし、絞り出すような声で呟いた。
「……月島先輩?」
現状を把握できない俺だけが、困惑してただ立ち尽くしている。
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