第110話:障害者の業務独占

 日々が順当に進んでいた。

 全く何の問題もないとは言わないが、平和な日々だと思う。

 少なくとも前王家が国王だった頃よりは民が豊かになっている。

 それだけは断言できる。


 働く気が有る者が仕事に就けない事はない。

 病気やケガした者が治療を受けられない事もない。

 病気やケガ、もって生まれた障害で仕事ができない者が飢える事もない。

 一生懸命生きようとしている者には保護を与えた。

 俺が前世で得た知識でできる事は全部やった。


 だがこの世界には天職というモノがある。

 天職や職業スキルというモノがある以上、やれることは限られている。

 だがそれでも、王の座に座った以上、俺にできる事をするしかない。

 俺に遺伝性障害を治す力があればよかったのだが、そんなモノはない。

 病気やケガは治せても、遺伝性障害までは治せなかった。


 だから障害者が生きていける制度を設けることにした。

 弱肉強食のこの世界ではとても難しい事だが、責任のある王位についたのなら、誰が何と言おうと邪魔しようと、俺の理想通りにしやってやる。

 俺一代でどれだけやれるか分からないが、やらずに後悔するよりはやって後悔した方がまだましだ。


 本心を言えば、苦しいこと難しい事からは目を背けて逃げたい。

 見えないフリ聞こえないフリをしたい。

 だが不完全な良心と、石橋をたたいて壊してしまうほどの慎重で憶病な性格が、逃げる事も見えないフリ聞こえないフリも許してくれない。


 まあ、ある程度のひな型がないわけではない。

 前世で東洋医学に携わっていたから、視覚障害者と共に働いていた。

 前世の日本では昔から視覚障害者の業務独占が許されていた。

 鍼灸あんま指圧は視覚障害者だけに許された仕事だった。

 それは戦後も長く続いていて、鍼灸あんま指圧の学校で健常者に開放されているのは全国で二校だけだった


 琵琶法師なども視覚障害者の仕事だった。

 昔の津軽三味線奏者に視覚障害者が多かったのもその影響だ。

 健常者もそういう仕事に就くのを遠慮していたのだ。

 三味線、箏、胡弓等の演奏家、作曲家などをする者も多かった。

 だが天職や職業スキルがあるこの世界で行うのは難しい。


 だから徳川幕府が行った検校貸しを取り入れることにした。

 公的に認められた貸金業は視覚障害者の座頭座だけの権利するのだ。

 リークン王国では貸金業を障害者の業務独占にする。

 取り立ては公的貸金業だから軍や警備隊に代行させる。

 

 ただ質屋をどう扱うかの問題がある。

 徳川幕府でも質屋は貸金業と別扱いだった。

 推測だが質草の目利きをするのに視覚障害者では困難だったのだろう。

 この辺は今後の検討課題としよう。


 後は宗教だな。

 教団の教皇や枢機卿団に間接的な嫌がらせをしてやろう。

 新たな教団を立ち上げて、障害者を修道士や修道女にする。

 障害者に寄付する事が神を敬う事につながるという教義にしてやる。

 私利私欲に走り障害者を助けてこなかった教団はどう反応するかな。

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