第52話:領地入り

「私もリークン公爵領に連れて行ってください。

 最近のアレックス様は、スライム従魔クラン設立に熱中されて、私の相手をしてくださらなくて、とても寂しかったのです。

 ようやくクランの事が落ち着いてきて、一緒にいられる時間が増えると思っておりましたのに、リークン公爵領に行かれて離れ離れになるなんて絶対に嫌です」


 俺がティン国王陛下とリークン公爵家継承に必要な領地入りの話をしていると、クラリス王太女殿下がプンプン怒りながら謁見の間に入ってこられた。

 いや、怒っているというよりも甘えているのだろうか。

 そんな風に思ってしまう俺は、自信過剰なのだろう。

 だが、怒っているにしても甘えているにしても、その愛らしい表情と仕草に目が釘付けになってしまう。


「ふむ、確かにあまり離れ離れにするのは可哀想だな。

 まあ、まて、リークン公爵、これは大切な政治的な行動でもあるのだ。

 リークン公爵がいくら王家に忠誠を見せてくれても、派閥に属する貴族の中には、公爵の力で王家にとって代わってもらおうと考える者もいる。

 長年仕えている譜代家臣の中にも、同じように考える者が多くいるだろう。

 ここはクラリスを連れて領地に乗り込み、仲の良い所を大いにアピールしてくれ。

 それが王家にとってもリークン公爵家にとっても最良の方法だ」


 ティン国王陛下はもう俺を完全にリークン公爵として扱っている。

 それにティン国王陛下の言う事に嘘偽りは一切ない。

 派閥貴族や譜代家臣は、俺の力で王家を圧倒して欲しいと思っている。

 王朝交代が可能ならば、断じて行って欲しいと考えているだろう。

 だが俺にそんな気がない以上、早々に諦めさせた方がいい。

 俺の望みと違う欲望を放置していると、どこで内乱がはじまるか分からない。

 俺がクラリス王太女殿下の王配となり、争うことなく王朝交代するのが一番だ。


 俺の元いた世界では男女平等でいい加減になってしまっていたが、父系の血統が変わる事は王朝が乗っ取られて交代することになるのだ。

 その時代に権力を持っている者が女王や女皇を擁立し、武力などの権力で脅かして自分や息子を婿に選ばせれば、その国を乗っ取ることが可能になってしまう。

 特定の宗教組織の教祖が、政党を創り出して世論を動かし、表に出ていない党員や教徒を女王や女皇の婿に押し込んで、影から支配する事も不可能ではないのだ。


 まあ、俺は心からクラリス王太女殿下を愛しているから、クラリスが王太女の位を返上して、俺の妻になると言っても何の問題もない。

 ティン国王陛下が、一番縁の近い男性王族に王位を譲ると言っても反対しない。

 今回はたまたま俺が公爵家の跡継ぎで、一番近いわけではないが、男系王族だから大きな反対が起こらないだけだ。


「分かりました、国王陛下の御考え通り、クラリス王太女殿下と一緒に領地入りさせていただきます」

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