第6話 年齢に違和感のある『母の知人』だという男
当然、パイロットになりたかったわけでもない。
嫌々始めたパイロットの教習。入隊三日後には、誠は自分の不適格を自覚して、教官に技術士官教育課程への転科届を提出した。
しかし、なんの音沙汰もない。
途中で紛失されたのかと、次から次へと、自分で思いつくかぎりのそういうものを受け付けてくれそうな部署に連絡を入れた。
回答は決まって『しばらく待ってください』というものだったが、最終的に何一つ回答は無く、パイロット養成課程での訓練の日々が続いた。
そして、そういう書類を提出した日には必ずある男から電話が入った。
嵯峨惟基特務大佐。
誠をこの『胃弱差別環境』に引き込んだ張本人である。
古くからの母の知り合いのその男は、誠の理解を超えた男だった。
40代と言い張るが、その見た目はあまりに若かった。
しかし、誠の記憶からするとやはり嵯峨の年齢は40歳から50歳であることは推測が付く。
誠がその存在に気づいた5歳くらいのころである。
その時はすでに20代前半のように見えたことが思い出される。
そして、現在もほとんど外見に変化が無い。昔からその言動は『おっさん風』だったが、見た目がまるで変わらないのである。
実際、誠の実家の剣道場、『
誠の母、『
嵯峨は尋ねてくると必ず、喫煙者のいない誠の実家の庭に出て、見慣れない銘柄のタバコを一服した。
そして母に静かに挨拶して帰っていく。
そういう光景は何度も見た。
長身で二枚目でありながら、その挙動にどこか抜けた雰囲気のある男。
それが嵯峨だった。
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