244話 孤児院へ 1
ポチからの警告を受けたコウはカイトを孤児院へ案内するため、彼の元へ向かった。
「……」
その道中はポチの言葉を繰り返し思い出しては、背中がヒヤリとしたものを感じる。
もし本当に彼が、カイトだけを連れて王国へ帰ってしまったら? 問題はいくつもある。
毒の件は、ポチが1番の頼りだ。調査しているという倭国側の人間も全く役に立たないという事はないだろうが、やはり彼の魔法の技術と人間離れした嗅覚は手放したくはない。
彼自身あまり自発的に協力している訳ではないが、主人であるカイトの命令がある限りは大丈夫だと思われる。
だからこそ、カイトの身の安全は自らの手で確保したいが、現状それは叶わない。
そんな、どう行動する事が最善なのかを必死に考える。
「もし、2人だけで帰ってしまったら……俺達は王国には帰れないな」
ふとそんな考えがよぎり、苦笑いする。
元は倭国から使節団として王国へ渡ったとはいえ、今自分たちは不法入国している身。倭国から王国間の海を渡れるほどの船は出せないだろう。
そう言った点からも、彼には自分達が街へ戻るまでここにいてもらわなければ困る。
コウは、結局答えの出せぬまま、茶碗などの食器を売っている店でカイト達を見つけ、合流した。
「おかえり」
「……うん、お待たせ」
コウの様子を不審に思ったミフネが尋ねる。
「ん? なんかあったの?」
「……いや、なんでもない。かいと君、手続きが終わったよ。明日その孤児院に入れることになったからね」
ポチに言われたことを打ち明けるか悩んだが、はぐらかしカイトへそう伝えた。
「ぁ……は、はい」
孤児院の手続きが終わったと聞き、カイトは緊張した表情をした。それをコウが見つけ、心配する。
「……ごめんね、俺達のために無理してもらって」
「あ、いや……だい、大丈夫です」
その返事に心を痛めるコウ。カイトは手を振って大丈夫と言っているが、緊張している様子に変わりはない。
その後3人は、都へ向かうための準備を始めた。移動中の食料や道の確認。その間、カイトはずっと彼らと行動を共にしていた。
夜は前日と同じよう宿で過ごした。何気ない会話をコウとカイトは交わしていたが、コウは罪悪感から心労を感じていた。
別部屋ではミフネとセオトが会話している。彼女達の話題はカイトで、その内容から彼女達もまた罪悪感による心労が見て取れる。
しかし、そんな3人の心境に、緊張や不安でいっぱいのカイトが気付けるはずもなかった。
ー 翌日
今日は朝から雲行きが悪く、夜は明けたものの日差しはない。雨がいつ振ってもおかしくないような天候だ。
「……あと準備する物はないかな?」
「ええ、これで都まではもつはずよ」
天気の様子を伺い昼に宿を出たコウ達、京都までの道のりで雨が降ることを考え追加で傘を購入し準備を整えた。
あとは、孤児院へカイトを送り届けるだけだ。
「……じゃあ、孤児院に行こうか」
カイトは軽く唇を噛んみながらうなづく。その様子にコウ達は顔を見合わせつつも、歩き出した。
孤児院に到着するまであまり時間はかからなかった。
ミフネとセオトは外で待っていることになり、コウとカイトの2人で孤児院へ入る。昨日の老人が2人を出迎えた。
カイトは緊張で全く喋ることが出来ない。
「昨日来た時に話した子なんですが」
「はいはい、昨日話した子だね。たしかかいと君と……はて?」
カイトを見た老人は、少し驚いた表情を見せた。
「どうかしましたか?」
「いやぁ、どこかで見た子だと思ってね……ああそうだ、数日前にうちの子を送り届けてくれた子だね」
こわばるカイトをまじまじと見た老人は、ハッと思い出したようにそう言った。
カイトは数日前にこたつを送り届けるために孤児院へ足を運んでいる。その時のことを覚えていたようだ。
「あー……そういえば、迷子の子を送り届けたとか……」
コウもそのことを思い出し、そう答えた。
「そうそう。あの時はうちの子が世話になったね」
「ぁ……いや……は、はい」
顔を覗き込んで来た老人に、おどおどと答える。
すると、その老人の顔は不思議そうに眉をひそめた。
「しかしその時は……」
何かを言いかけたが、首を振って言葉を遮った。
「いや、なんでもない。かいと君、今日からよろしくね」
「……よろしくお願いします」
カイトの頭を撫でながら、老人はそう微笑みかける。
「それじゃあ……あとは何かあるかな?」
「……いえ、特には」
「そうかい。かいと君は何か質問はないかな?」
「えっと……ないです」
2人から回答を得た老人はうなづき、カイトを奥の部屋へ行くよう促した。
「これでひとまず、今すべき事は終わりだよ。それじゃあ、1ヶ月後にね」
「はい、よろしくお願いします。かいと君、色々ごめんね。じゃあまたね」
「……1ヶ月? ……あ、そっか……」
カイトは今初めて、孤児院にいるのは1ヶ月であることに気がついたようだ。
「……かいと君?」
「ぁ、いや……1ヶ月、待ってます」
「うん、それじゃあ」
うなづき、小さく手を振るカイト。コウもそれに小さく手を振り返し、孤児院を出て行った。
「……」
コウの姿が見えなくなり、今まで感じていた不安が大きくなる。しかし、そんな彼を心配する様に顔を覗き込んで来た老人には、あまり心配させないようにと愛想笑いで答えた。
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