234話 大事な話
ポチは懐から巾着袋を取り出した。その中には穴の空いた灰色の丸いものや銀色の四角いものが入っている。
お金かな……日本のお金がどんなのかは見たことないけど、きっと江戸時代のと同じなんだろうなぁ。
……そういえば、まだお昼ご飯食べてなかったなぁ。
「えっと……お、お腹すいた……」
「じゃあ、どこかで昼飯にするか」
ポチと手を繋いで、近くのお店に入った。お昼時が過ぎていたからか、あまり人はいない。
店ではうどんを頼んだ。王国でも美味しい麺類は食べたことあるけど、天ぷらが特にとても美味しかった。
そして、夕方。街の風景が赤く照らされ始めた頃に、コウさん達が帰ってきた。
しかし、その様子は3人ともかなり怖いだった。
「かいと君と、ぽ……いや、史郎君。探したよ」
彼は俺達を見つけるなりそう言い、駆け寄ってきた。しかし、俺ではなくポチへ話しかけた。
「ちょっと話したいことがあるんだ。場所を変えてもいいかな?」
ポチはそれに了承し、彼らの後をついていく。かなり早足だった。
そして、街から離れて誰もいない田んぼ道へ到着した。
「ここならいいかな」
「ええ、誰もいないわ」
辺りを見渡してそれを確認したコウさん達は、今日あったことを話し始めた。
事前にポチからも同じ話を聞いていたから、スムーズに聞き入れることができた。
「……で、史郎君、ここからが本題なんだ」
「なんでしょうか」
「そ、それは私から」
瀬音さんがおずおずと前へ出て、紙を取り出し話し始めた。しかし、その話し方はハキハキとしている。
「先程話した件くだんで、本部が討伐隊を再構成するにあたりより新しい情報を得ることを優先とする」
情報……。
「本部では忍びを数名この街へ配備、情報が十分得られたと判断し次第、討伐隊を投入の検討を始める……でですね、ここからがかいとさん達に関係してくる事でして……」
お、俺達に……もしかして……。
「お伝えします。総一郎殿に盛られた毒の件くだんを知らせた者への協力を仰げ……との事です」
や、やっぱりそうなるんだ……ポチの言っていた通りになった……。
ポチは人間じゃ分からない毒の臭いに気がつくことができたんだ。そりゃあ、協力してくれって言ってくるよね……。
「……ま、そういう事よ。お上かみは少しでも情報が欲しいらしくて、ぽち……じゃなくて、史郎にも協力を仰いだの」
「ええ、予想はしておりました」
「そ、なら話は早いわ。協力してくれるわよね?」
「はい、そのつもりでした。主人あるじ様にも先程伺っていました」
ポチは笑顔ですぐにそう答えた。
「主人様、それでよろしいですか?」
「ぁ……う、うん。その方がいいんだよね? だったら、それで大丈夫だよ」
「分かりました」
えっと、この国にいるならその方がいいって言ってたよね……なんだか不安だけど、仕方ないね。
「……して、功様。協力するとなりますと、一般人を演じている私はどのように立ち回ればよろしいのでしょうか。総一郎様の屋敷にずっといるわけにもいきません」
「確かにそうだね……」
「じゃあ、おじいちゃんの屋敷から出た廃棄物とか調べてもらうのはどうかしら」
「いや、それより……」
コウさん達がポチに、どう協力してもらうかを話し合い始めた。確かに協力するとは言っても、どう協力すればいいのかは分からない。
一般人として協力するって……結構難しいよね? せめて魔術か魔法が使えれば……。
「……あ、あの……」
「なんだい? かいと君」
こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど……。
「光魔法で姿を消して、ずっと総一郎さんの部屋で見張ってるって……だ、だめかな……だめですか……?」
「……魔法か……」
そう提案するとコウさん達は顎に手を当てて考え始めた。
き、協力するのなら、ちゃんと成果を出した方が良いだろうし……魔術と魔法は使っちゃダメって言われてるけど、そうでもしないと……。
「……まぁ、散々魔術とか使うなって言っておいてあれだけど……それが1番いいのよね」
「まぁ……そうだね」
「そうですね」
怒られるかと思ったが、すんなりと俺の意見に納得していた。
「まぁ、彼ならきっと上手くやれるだろうし、本部の方にはなんとか誤魔化すとして」
「……じゃあ、決まりね」
「ああ」
思っていたよりもすんなりと話しがまとまったみたいだ。
コウさん達はこちらを振り向き、これからする事を話した。
「史郎君、君は光魔法で姿を消して、総一郎さんに誰が毒を盛っているのかを見張ってくれ。本部の方はこっちがなんとかするから」
「ええ、分かりました」
「でも、何かあったらいけないから光魔法以外の魔術や魔法は使用禁止で頼む」
「もちろんですよ」
ポチは快く応え、コウさん達は安堵の表情を見せた。光魔法を使うのを許可したのも、総一郎さんを助ける事を優先したからだろう。
「ありがとう、助かるよ」
「ええ」
「できれば今夜から頼みたいんだけど、いいかな?」
「構いません」
「それなら今夜、あたし達は宿に泊まるからかいとはこっちで預かるわね」
「はい、よろしくお願いします」
すると、瀬音さんが俺に手招きをしている事に気がついた。慌てて駆け寄ると、彼女は俺の手を握った。
「……それじゃあ、とりあえず今日は宿に行こうか。細かい事は明日、本部から使いの者が来る予定だから、その後に話し合おう」
「ええ、分かりました」
話しがまとまり、街へ向かう。歩く田んぼ道の先にある街は、夕暮れでオレンジ色に染まっていた。
だけど……どこか不穏な空気を感じてしまうのは気のせいかな……?
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