219話 いい人
朔夜さんの顔を見上げる。彼女は変わらず、笑顔を俺に向けてくれた。
「やから……ほら、迷惑とか、そう言うのは一旦忘れて……素直にうちを頼っておくれやす」
「……い、いいの……?」
「かまへんよ」
少しの間、朔夜さんを見つめ続けた。その間も、彼女は変わらず優しい笑顔のまま。
「ほら、遠慮なんてせんといて」
「ぅ……うん……」
なんだか……力が抜けてきた……。
うなずくと同時に、緊張がほぐれたのか体から力が抜けていった。そのままぽてっと、朔夜さんの体へ体重をかけるように倒れてしまう。
でも……なんだか、こうしてると安心する。
「おやおや……ふふっ、やっと素直になってくれはったんやね。ほら、遠慮なんてせんといて、どうしてほしいん?」
「さ……寒いから……ぎゅってしてください……」
「はいはい」
少しびくびくしながら頼むと、朔夜さんはいやな顔一つせずその通りにしてくれた。
「……な? うちは全然迷惑がってなんておまへんえ」
「ぅ、うん……」
だんだん体が暖かくなってきた。
なんだか……こうしてると、お母さんの事を思い出すなぁ……やっぱりお母さんとは少し違うけど、あったかいのは同じだし……。
「ふふっ、随分とかいらしい顔になりましたなぁ」
「か、かい……?」
「可愛らしいって意味どす」
「ぅ……」
可愛いって……ちょっと恥ずかしい……。
初対面の人に甘え過ぎた。それに、俺は男の子だから可愛いはちょっと……。
少し恥ずかしくなって、思わず彼女の体から離れようとする。
「あらあら、どしたん?」
「えと……あの……」
「んー?」
彼女は、しどろもどろの俺の顔を覗き込んでくる。恥ずかしいから、目を合わせないで答えた。
「か、可愛いは……ちょっと……恥ずかしい……」
すると、朔夜さんの表情がにやぁ……と変わった。
「えーなんでなんで? かいらしいのをかいらしいって言ゆうて、何があかんの?」
「えと……ぼ、僕は男……だから……」
「ふふふっ、うちからしたら、かいとはんが男でも女でもかいらしい事に変わりはありまへんえ」
「うぅ……」
な、なんか……めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた……。
「……ま、からかうんはこの辺りにしときまひょ」
すると、俺の心情を悟ったのか、朔夜さんはひょいと俺を持ち上げた。そして、彼女の膝の上に乗せられ、目には火が燃える囲炉裏が映る。
朔夜さんが後ろに回った事で、恥ずかしさはだいぶ収まった……ような気がする。
とりあえず落ち着いたし、もう大丈夫かな。
「それにしても、ているはんも思い切った事をしはりますなぁ」
朔夜さんが話題を変えた。テイルという名前に、ぴくりと体が反応した。
「ているの事……知ってるんですか?」
「そりゃあ、もちろんどす。うちを造ってくれはったんは倭国神はんやけど、その倭国神はんを造りはったんは、テイルはんやからね」
そりゃあ、テイルを知ってるのは当たり前か。
それより……倭国神……? わこくって事は、この国の神様なのかな?
「倭国神……様? って……」
「文字通り、この国を造ってくれはった神様どす。うちは土地神やさかい、倭国神はんは“国神”どすえ」
「国神……」
この後、朔夜さんから“神様”について教えてもらった。
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倭国には“国神”、“土地神”が存在する。
国神は倭国の地を作り、自然を作り、それぞれの地を管理する土地神を造った。
やがて人々が文化を持ち、その神々を信仰するようになった。
宗教は“創神教”と言い、各地で神社が建てられ祀られた。
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「……さっきも言ゆうたけれど、うちもそんな土地神の1人どす。……ま、うちより優秀な神木はんが登場してからは、仕事は無くなってしもうたんやけどね」
「そうなんですか……」
「せやから、今はこうして静かに暮して、たまにうちが見える人間はんに話し相手になって貰ってるんどす」
そうだったんだ……なんだか、神様の世界も大変なんだなぁ……。
それにしても、国神や土地神と言う神様は初めて聞いた。
テイルは確か、自分の事を神様みたいなものって言ってたし……。
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