111話 紹介 過去 3
ー カイトの部屋
「……カイト様は私に、生きる意味を教えてくださいました。カイト様は、私の命の恩人なのです」
ポチの過去を聞いて、俺や両親は黙り込んでしまっていた。
「そして、ひとつ訂正があります。私は国を滅ぼしたブラック・ワイバーンとは別の個体です」
「なに……!?」
「先ほど話させていただいた通り、主人様と対峙するまで山岳で過ごしていました」
それを聞いて、驚いたものの安心もした。
しかし、あまりに衝撃的な彼の過去を考えると、体を動かすどころか、彼に声をかける事も出来ない。
すると、ポチは両親のすぐ前まで移動した。
何をするのかと思ったその時、彼はゆっくりと両膝をついた。そのまま姿勢は低くなっていく。
そして、土下座の体勢をとった。
「っ!?」
それを見て両親も驚く。彼は土下座の体勢のまま話した。
「……ご両親様のように、カイト様を息子として思いやる心を理解する事も、理解する資格も私にはありません。……しかし、カイト様への忠誠心に嘘偽りは一切ございません」
「……」
「いざとなれば、命に変えてでもカイト様をお守りする覚悟です。どうか……この卑しい1ワイバーンがカイト様へ仕えるお許しを」
「……」
両親は黙り込んでしまっている。
その様子を見るに、まだ彼を許さないんじゃ無いかと思った。
それを見ていられなくなり、口を挟む。
「お父さん……許してあげて……だめ?」
「っ……カイト……」
すると、お父さんは俺の頭を撫でた。
「カイト……君は少し、優しすぎるな」
少し微笑みながらそう呟く。そして、土下座をしているポチへ目を向けた。
「あー……顔を上げてくれ。そのままでは話ができん」
「分かりました」
そう指示されると、ポチは姿勢を直し、立ち上がった。まっすぐとお父さんを見ている。
「……君が息子にした事。それを許す事はやはり出来ない」
「え……お、お父さ……」
「カイト、ちょっとこっちにいらっしゃい」
お父さんの言葉に反応する俺を、お母さんが持ち上げて自分の膝の上へと乗せた。
彼女の顔を見ると、指を立てられ静かにしているよう、指示される。
俺は黙ってなりゆきを見守ることにした。
「なぜ許す事が出来ないのか、それを理解しろとはもう言わない」
「はい」
「……君は、“命に変えてでも”カイトを守ると言ったな? それは、本気で言っているのか?」
「はい。それが私の本心であり、望みです」
「……」
「……」
少しの間、2人が見つめ合う時間が続いた。
そして、お父さんの大きく息を吐く音が聞こえた。
「……君のせいで息子は辛い思いをした。だから……君には、それを“償って”もらわなければ困る」
「はい」
「君が言った事……絶対に忘れるなよ。……今ここで、それを誓うんだ」
お父さんがそう言うと、ポチは胸に手を当て片膝を床へつけた。
「っは。この命が果てるまで、この誓いは違えません」
ポチの返答を聞き、お父さんは大きくため息をついた。
「……だそうだ。エアリス、君もそれで良いな?」
「もちろんよ。そこまで言うのなら、しっかりカイトを守って貰わなきゃ」
……良かった……。
お母さんに抱かれたまま、俺はそう思った。
ひとまず両親の許可は貰えた。これで、ポチを俺の側に置いていられる。
「話は変わるのですが、ご両親様」
「……なんだ?」
「“主人あるじ様”より、私はここで執事として働く様指示されております。その許可も、いただきたく」
「……初耳なんだが」
こちらに目を向けるお父さんから、露骨に目を逸らす。冷や汗がだらだらと流れた。
「……まぁ良いだろう。ただカイトの周りに付き纏うだけでは、他の使用人に不審がられてしまうだろうからな」
「ありがとうございます」
それを聞き、ポチは爽やかな笑顔を見せた。
「それにあたり、ワイバーンと人族の皆様との常識の違いを正すための情報収集をしたく存じ上げます。図書室の使用をお許しください」
「……ああ、分かった」
「執事として働くなら、まずはティカに挨拶して貰わないとね。明日の方が良いかしら?」
「お心遣いありがとうございます。今夜は常識を正す事に専念しますので、明日、よろしくお願いします」
「……では、図書室へ案内するからついて来なさい」
「なら、私はティカに明日の事を説明して来るわ」
お父さんはそう言い部屋から出て行った。お母さんは俺を膝から下ろして立ち上がる。
そして、俺に微笑んでから部屋を出て行った。
「では、主人様。図書室へ行って参ります」
「う……うん」
無事彼を両親に認めてもらい、安心はしたものの正直少し不安だった。
彼は“ワイバーンと人間の常識の違い”があると言った。ここで生活していく中で、その違いによってお父さんやお母さんを怒らせてしまわないか。
もし怒らせてしまったら、さっき(遠回しに)貰えた許可を取り消されてしまうかも知れない。
すると、ポチはその不安に気がついたのか、話しかけて来た。
「ご安心ください。カイト様及び、屋敷の皆様にご迷惑はお掛けしませんから」
「……うん」
……ポチはすごく頭が良いし、大丈夫かな……。
「……分かった。ポチ、信じてるからね?」
「はい。お任せください」
「おい、ポ……ポチ! 来ないのか?」
廊下からお父さんの声が聞こえる。
やっぱり……ポチと呼ぶのには抵抗があるよね。
「はい。今向かいます」
彼は返事をすると、廊下へ向かった。
だが、そのすれ違い様に俺に顔を近づけ、耳打ちをして来た。
「主人様が別の世界から来た事も、秘密にしておきますので」
「……んぁ!?」
衝撃的な言葉が聞こえた。
驚いて彼の顔を見ると、にっこりと微笑んでいる。
「なっ……それっ……なっ……んぁ!?」
「フフフ」
「な……なんで知ってるの!?」
そういえば、俺の記憶を読み取ったんだっけ? なら、それも知っていて当然……。
あまりに突然の事で、否定するのを忘れてしまった。その事に気がついて慌てて否定をする。
「あっいやっ別っのっ世界っなんてっ知らないヨ!?」
「そうですかそうですか」
彼は微笑みながら、俺の反応を楽しんでいる様に見える。
それを見て、彼が“さでぃすと”である事を思い出した。
「……お、お願い……それだけは誰にも……」
「ご安心を。主人あるじ様を裏切る行為は致しませんので。では、父様の元へ行ってまいります。あと、否定するならもっと粘ってください」
「あう……」
彼はそう言い、出入り口の方へ歩いて行った。
「……」
それを見て、不安を覚えつつも安心した。
自分の過去を語っている時のポチは、とても悲しそうだった。彼は平然と話している様に見せてはいたものの、俺にはその心境が不思議と伝わって来ていたのだ。
きっと、“召喚主”と“召喚獣”と言う間に、そういう何かあるのだろう。
だが、今の彼からはその悲しみは伝わって来なかった。悲しいどころか、少し楽しそうにもしていたし……。
その様子を見るに、特に心配はいらないだろう。
……と言うか、多分心配してるってバレたらいじられると思う。
「……ポチ」
名を呼ぶと、ドアノブに手をかけていたポチは振り返った。
「……これからよろしくね」
「……!」
笑顔で改めて挨拶をする。
すると、彼も笑顔で応えた。
「はい、よろしくお願いします。主人あるじでもあり“親”でもある……カイト様」
「うん!」
そして、彼は部屋を出て行った。
「……」
この短期間で、我が家には一気に住民が2人も増えた。
エルフのリティアさんに、ブラック・ワイバーンのポチ。
この世界に来てから、初めての異種族だ。その事を考えると、少し感動する。
だが、異種族だからこその苦労があるだろう。
2人をここに連れて来たのは俺だ。だから、何かあった時は俺がしっかりとしないと。
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