99話 家庭教師 2
「では、今回の件について会議を始める」
広い部屋の中に長く大きなテーブルが1つあり、その周りをこの国のお偉いさん達が囲んでいる。
国王、宰相、各騎士団長、国政の担当者、そして俺。
なんでっ!?
困惑する俺を差し置いて、宰相が立ち上がる。
「まず、最優先は国民への避難勧告の解除、そして他国への応援要請の解除と思われます」
「その件に関しては、既に人を出しております」
宰相の発言に国政担当者が答える。
ガチの会議じゃん……なんで俺ここにいるの…?
ちなみに、顔を隠しているリティアさんはミフネさんのそばにいる。
『あたしの連れよ。別に気にしなくて良いわ』と言う彼女の一言以降、誰もその存在に触れなかった。流石騎士団長。
一通りの話が終わったらしく、テーブルの上に広げられた紙がまとめられ始めた。
「では、今回の件の1番の問題を片付けよう」
お……って事はこれで最後か。というか本当に俺がいる意味あるの?
「ここにいる『龍殺しの英雄』カイト氏への報酬についてだ」
「ん!?」
自分は必要なのかと思った矢先、突然名を出され驚いた。あと『龍殺しの英雄』という厨二臭い2つ名にも驚いた。
「オーラン、彼にはどれくらいの報酬が最適か、君の意見は?」
「はっ、私は……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
話が始まったらろくに喋れなくなるような気がしたので、慌てて口を挟む。
「別に僕は特別に報酬なんていりませんよ!?」
「そういうわけにはいかない」
王様の雰囲気が一変した。フランクなイメージとは真逆な感じた。
「君も知っているだろう? ブラック・ワイバーンは、国を滅ぼした記録があるほどの強力な魔物なんだ。それを単独討伐した功績は計り知れない」
「そ、それは……」
「たとえ、他国の協力を得られても倒せるかどうかは正直分からない。この国が例の国のように、滅ぼされていてもおかしくなかったんだ」
「……」
それは……分かってはいるけど……正直なところ、報酬なんて考えていなかったし……。
「……聞いた話だと、ブラック・ワイバーンとの戦闘で君は何度も死にかけたそうじゃないか。命をかけて国を守ってくれた者に、私が出来る恩返しは“それに見合う報酬”だけだ。だから、君に何としてでも報酬を受け取ってもらいたい。ただ……」
そこまで言うと、彼は頭を抱えてしまった。
「君にどれくらいの額を払えば良いのか分からないんだよね……」
報酬を無くせばいいと思う。
例えそう言っても、これは意地でも受け取らせるつもりだ。多分、断っていたらキリがない。
「うーん……」
何かいい手はないか……そう考えていた時、1人の男性が手を挙げた。
「なんだ、アルフレッド」
王様が名を呼ぶと、その男性はゆっくりと立ち上がった。
「……!」
その男性には見覚えがある。あの不正裁判の時の奴だ。
中年程の見た目で、人相もあまり良い印象を持つものでない。
「ええ、実は以前からカイト氏と話をしたいと思いましてね」
すると、彼はこちらを向き不穏な笑みを見せた。
「この度は、我が母国を救って下さりありがとうございます。あなたの我が国への慈愛には頭が下がる思いでございます」
「……はぁ、どうも」
なんだこいつ? 急にへりくだって……あの時の事は忘れてないんだぞ?
すると、俺の思っている事に気がついたのか、弁明をしてきた。
「あの節は失礼しました。あなたを救おうと必死だったもので……しかし、私の願望も混じっていた事も事実です。不快にさせしまった事を心よりお詫びします」
「……はぁ」
……その少しにやけたような顔で言われたって、説得力ないんだよな。
「おい、アルフレッド。お前は世間話をしにきたのか? その話は今しなければならない事なのか?」
「ああいや、申し訳ございません。……では、本題を」
彼は、ゆっくりとこちらに近づきながら、話始めた。
「彼の功績は大変素晴らしいものです。私は彼に是非、我が国民の安心の象徴となって欲しいのですよ」
「……何が言いたい?」
彼は俺の後ろまで歩いてくると、俺の両肩に両手を置いた。
「彼を騎士団に入れるべきです」
「なっ!?」
何言ってんの!? あと、触んじゃねえ。
肩を振って、置かれた両手を振り払う。
「おっと……ふふふ、あなたも功績に見合う名声が欲しいでしょう? ぜひ、我が騎士団に……」
「却下だ。話にならん」
彼の提案を王様が一蹴した。
「な、何故ですか王!?」
「簡単な話だ。彼がそれを望んでいない」
「……っ!」
王様は俺の事を考えてくれているんだな。
だが、この男は違うようだ。明らかに動揺している。
「な、何故ですか!? 王よ!」
「それは今言った通りだ。聞こえなかったか?」
「っっ!! 1番隊隊長方! あなた方はどう思うんですか!? 彼を騎士団に入れるべきと思うでしょう!?」
「思わないね」
「思うわけないでしょ」
再び一蹴されるアルフレッド。明らかに怒りに震えている。
どんだけ俺を騎士団に入れたいんだよこいつ。
遂に耐えられなくなったのか、声を荒げ始めた。
「あなた達はこいつの価値を分かっていない!!」
お、本性出した。
「……おい、アルフレッド」
「最早、こいつの力は国をも動かすものだ! その力を野放しにする!? あり得ない!」
……。
「アルフレッド、黙れ」
「力を持つ者は国に尽くすべきだ! それは、人の手により作られた兵器だってそうだ! こいつは、あの魔力付与人型へい……」
「いい加減黙れやクソジジィ!!」
部屋の中にミフネさんの怒声が響いた。
「あんた……今、何を言おうとした?」
「っ……」
「何を言おうとしたって聞いてんのよ!」
続けて彼女の声が響く。
「し、しかし……こいつは……」
「おいアルフレッド!」
面食らっているアルフレッドへ、王様が怒鳴る。
「君は今この国を救った英雄を“物”と侮辱したんだ。それ相応の覚悟は出来ているな?」
「なっ……」
「席を外せ。金輪際、彼の前に姿を現すことは許さない。これは王命だ」
「……」
批判されたアルフレッドは、部屋の出口へと向かって行った。そして、扉から出て行く際に俺を睨みつけ、舌打ちをした。
……俺、あいつ嫌いだな。やはり、人間関係を持つとああいう輩が出てくる。
「……すまないが、私と騎士団1番隊隊長以外は席を外してくれ」
王様の命令によって部屋に残ったのは王様、コウさん、ミフネさん、ただいるだけのリティアさん、俺の5人になった。
「……カイト君、本当にすまない。どうか許してくれ」
王様が俺に頭を下げ、俺は驚いた。
「あっ頭をあげてください! 王様は全く悪くないじゃないですか」
「いや、そういうわけにはいかない。あれでも一応部下だ。部下の責任は私負う」
「き、気にしてないから大丈夫です」
1度目の人生でああいう嫌な奴はたくさんいたからな。もう慣れっこだ。
「……そうか、恩にきる。あいつは、頭はキレるが性格に難があってね……」
国王という職業柄、やはり苦労があるようだ。
「前の代からいたから……」
「……前の代?」
「……いや、何でもない」
前の代ってどう言う事だ……?
「それじゃあ、話を戻すけど……と言っても、カイト君を除いて3人になっちゃったね。あ、あとミフネの連れの子か」
「関係ないからほっといて」
「分かった分かった」
先程の発言が気になるが、今は関係ないので忘れる事にした。
「報酬の件だけど、手っ取り早く本人に欲しいもの聞けばいいじゃない」
「んー……まぁ、それもそうか。カイト君、何が欲しい?」
「そ、そんな急に聞かれても……」
「用意できる範囲なら、なんでもいいよ」
欲しいもの……? なんだろ……お金……はいらないしな……いや、そうだ。
「じゃあ、両親に金銭的支援をお願いします」
両親は領主だ。お金があって困るという事は無いはず。
「……それでいいのか? それだと、君の両親に対する報酬になりそうだけど」
「良いんです。僕はお金が欲しいとは、思いませんから」
お金は出来れば両親に使ってもらいたい。俺が持っていたって仕方がないからな。
「うーん……」
しかし、王様の表情は晴れない。
「…ダメですか?」
「いや、君がそれを望むのならそれもやるけど……やっぱり、君に受け取ってもらいたいんだよね。こっちにも色々あるからさ」
うーむ……あれかな? 面子的な問題?
とりあえず……大人の難しい事情は分からない。何か報酬として受け取れそうなものは……あ、そうだ。
「あの、形に無いものでも良いんですか?」
「もちろんだよ。何か欲しいものが見つかったかい?」
「はい」
俺が報酬として思いついたもの……。
「ミフネさんに、魔術を教えて欲しいです」
「……はぁ!?」
思いついたのは、彼女から魔術を教わる事だ。
「……君が魔術を教わるのかい?」
「はい。実は、魔術の連射速度がなかなか上達しなくって……ですから、ミフネさんに教師をして貰えれば上達するかなって……」
それを聞いた3人は、ありえない事を聞いているかのような表情だ。
「き、君が魔術を教わる……? ま……まぁ良いんじゃない? 騎士団長から魔術を教わるだなんて贅沢だと思うし……」
「うーん……確かに騎士団長となれば、私の王命じゃ無いと動かせないしな……」
「ちょっと、あたし抜きで話を進めないでくれる?」
「ダメかい?」
すると、彼女は顎に手を当て、考える様子を見せた。
「……いや、良いわよ。あたしも、カイトに1つ頼みたい事があるから」
頼み事……? なんだろ……。
「じゃあ、この場をしめよう」
王様はそう言い立ち上がった。
「ラカラムス王国国王、ライナ・ラカラムスの名において、グローラット家へ多額の金銭補助を行う。それに加えて王命を下す。ミフネ・ヤマト、『龍殺しの英雄』カイト・グローラットの魔術の教師を務めよ」
「……分かったわ」
……と、いう事でミフネさんが俺の教師になったわけだ。
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