46話 見た目をいじる



 今日の朝はいつになく騒がしい。


 『見覚えの無い白髪の女の子を見た』と言うメイドがいるのだ。

 それも、1人や2人ではない。


 その目撃談があるのは私や夫のグレイス、息子のカイトの部屋がある2階の様だ。


「ねぇグレイス。あなたはその女の子を見た?」

「いや、見ていないな」


 私達2人はまだ見ていない。そんな女の子を招いた覚えもない。


「そういえば、カイトはまだ寝ているのか?」

「まだ起きてないようね。……あ、もしかして……」


 その女の子はカイトと、背格好は似ていたらしい。もしかしたら、カイトが友達を連れてきたのかもしれない。

 人恐怖症はある程度克服したのだ。こっそり外に出ていたとしても、あり得ない話ではない。


 その考えをグレイスに伝えた。


「なるほどな。それはありえるかもしれない」


 仮に友達を連れてきたのだとすれば、それは喜ばしい事だが、せめて一言は欲しい。

 今からカイトを起こしに行くが、もしそういう事であるのなら注意しなければ。


 しかし、彼の部屋の中に入ると同時に、私は立ち止まった。


「エアリス、どうし……っ!?」


 続いて入ったグレイスも驚き立ち止まった。

 カイトが寝ているはずのベットに彼はいない。


 代わりに、白く美しい髪を腰まで伸ばした可愛らしい女の子が静かに寝息を立てていた。


「グレイス! あの子は誰?」

「わ、分からん……とにかく、メイドが見た少女はこの子の事だろう……」


 起こさないよう小声で話す。

 部屋を見渡してもカイトはいない。どういう事だろうか?


「……この子に聞いてみましょう」


 静かに彼女の元へ向かう。

 近くで見ると本当に可愛らしい。純白の髪が朝日を反射してキラキラしている。

 ただ不思議なのは、その女の子がカイトと同じ寝巻きを着ている事だ。


 どう言うことかしら……あの子が貸した?


「ね、ねぇ君。起きて」


 肩に手を添えてゆっくり揺さぶった。

 程なくして女の子は目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。


 タレ目気味でおっとりした顔。

 彼女は大きなあくびをした後、こちらに気がついたようでニコッと微笑んだ。

 そして、驚きの一言を発した。


「……ふぁ……ぁ、おはよう……お母さん……」


 ……今、私をお母さんと呼んだ?


 私はその場で固まってしまった。




 昨晩、カイトの部屋。


「あふぅ……眠いなぁ……」


 大きなあくびをしつつ、俺は椅子に座った。目の前には大きな鏡が設置されている。

 ここに座った事には、ちゃんとした理由がある。


「……にしてもさっきは驚いたな」


 鏡に映る頭の色は、金色になっている。でも、別に美容院に行った訳ではない。


 新しく貰った『各能力効果上昇』と言う加護で、様々な能力の効果が飛躍的に上昇した。

 だから、前々から気になっていた“身体操作”を試しに使ってみたのだ。


 このスキルは“涙を自由に流す”とか“体温を上げる”とか、頑張っても体表に傷跡っぽい跡を偽造するとか、十分に凄いけどいまいちパッとしない事しか出来なかった。


 だから効果が上がった事で、どの様なことが出来るようになったのか、前から気になっていたのだ。

 といっても、前からできた“涙を自由に流す”などに、効果の上昇は見られなかった。


 しかし、なんとなく『髪の色とか変えられないのかな。こう……金色とか』と呟き、鏡を見た瞬間俺は飛び上がった。

 髪色がつむじのあたりから、じわじわと金色に染まっていったのだ。


 そんな事があり、色々試そうと鏡の前に座っている。


「これは、他にも色々出来そう……」


 手始めに髪を色々な色に染めてみた。

 染まり切るまで少しかかるが、試した色は全て出来た。虹色になった時は少し笑った。

 今は、なんとなく白にしている。


次に髪を伸ばしてみる。すると、これもじわじわと伸びていき、1分程で腰までに達した。


「すっ凄い……身体操作……」


 鏡には、白く長い髪を生やした俺が映っている。

 元々、俺は中性的な人相をしているので女の子に見えなくもない。


「もう少し、目尻とか丸かったら完全に女の子なんだけどなぁ……わぁ!?」


 そう呟いた次の瞬間、驚愕した。

 明らかにさっきより目尻が丸くなっている!


「まさか……」


 目尻を戻すよう意識してみる。すると元の俺の目になった。


 それからの俺は、驚きっぱなしだった。


 顔のパーツはもちろん、目の色、声色、身長まで、時間はかかるが思いのままだった。


 今の俺は、完全に白い髪の可愛らしい女の子だ。


「……あ」


 ふと思ったんだけど、元の姿に戻るにはどうすればいいんだろ?


 どうすれば良いのかは分からなかったが、これはすぐに解決した。

 元の姿を思い浮かべると、一瞬で戻ったのだ。 

 その後、あの白髪の女の子を思い浮かべると、一瞬でその姿になった。


 どうやら一度なった姿は、記憶さえしておけばいつでもその姿になれるらしい。(原理は知らないけど)


 ゲームのアバターみたい。(やった事ないけど)


 実を言うと、俺は自分自身のことをまさしく、ゲームのアバターのように感じている。

 転生してきて、元とは違う体で生きているのだから仕方ない。


 そんなことより……。


 ずっと思ってたけど、身体系スキルの“身体強化”と“身体操作”、これってなんで魔法じゃないんだろ?


 ラノベでは“身体強化”は魔法扱いだった。“身体操作”だって魔法レベルの代物だ。


 それなのに魔力を消費しない。あくまで『特技のようなもの』なのだ。


 ……最近、俺の人間離れが深刻だ。


 この後、性別を変えられるかを試している最中にとてつもなく眠くなったので、白い髪の女の子の姿のまま眠った。

 ちなみに数時間かければ、性別も変えられそうだった。



 次の日の朝。

 尿意で目が覚め、現在の姿を忘れてトイレに行った。

 この時メイド数名とすれ違った気がするが、寝ぼけていてよく覚えていない。


 お母さんに起こされた時に、彼女が固まっていたのでハッとして“身体操作”を両親に説明した。


「そ、そんな魔法があるのね……」

「あ、魔法じゃなくて、身体系スキルなの」

「そ……うなのか……すごいな……」


 するとお母さんが頭を撫でてきた。


「しっかり根元まで真っ白なのね……」


 そして次は両手を頬に当てて、目線を合わせて来る。


「でも、よく見てみたら元の顔の面影があるわね」

「見事なものだな」


 2人は感心しているようだ。両親に褒めてもらって気分が良くなる。


 その後は、メイド長のティカに説明して事態を収拾させた。

 なんとなく女の子の姿のまま朝食をとる。


 部屋に戻ると、お母さんがくしを持ってきて髪をとかしくれた。

 その時に、とある提案をされる。


「ねぇカイト。あなたのそのスキル、制限時間とかはないの?」

「……? うん、ない」

「そうなの……」


 どうしたんだろ。


「急だけれど、冒険者に興味はない?」

「……冒険者?」

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