第12話 私はアルフリーダ
「……そなた何者だ? なぜノアを知っておる」
ノアは
それもそのはずだ。
彼女は今の僕の姿を知らない。
僕はノアに地上に降ろしてもらうと、両手を広げて自分の兵服を彼女に見せる。
何の変哲もない下級兵士の通常装備だけど、僕がいつも着ているこの服を見れば分かってもらえるだろうか。
「ノアには言ってなかったね。僕、アルフレッドだよ」
僕の言葉にノアは案の定、
「……
そう。
ノアの指摘する通り、今の僕は女の子だ。
え?
いつのまに性転換手術をしたのかって?
いや、手術はしてないんだけどね。
そこでミランダとジェネットも僕に近付いてきて、ノアと同じように
だけどノアよりも僕と付き合いの長い彼女たちにはピンと来たらしい。
「もしかして……アル様ですか?」
「あんた……さっき装備していた
今の僕の姿は彼女たちを大いに驚かせたみたいだ。
僕は何だかこの姿を皆に見られるのが気恥ずかしくて思わず
「う、うん。あまり大きな声じゃ言えないんだけど、僕だよ」
僕の言葉にミランダたち3人は目を丸くした。
そんな彼女たちに僕は自分のステータスを見せる。
そこに表示された僕の今の名前を見てミランダが思わず声を詰まらせた。
「ア……アルフリーダ」
そう。
それが今の僕の名前だ。
王城の下級女性兵士アルフリーダ。
長くなった髪などの容姿だけじゃなくて、ステータスも書き換えられて別人になっている。
それは神様が準備してくれた、
「我が主が用意した例の姿が今のアル様なのですね」
「うん。そうなんだ。ジェネット」
さっき神様が僕に手渡した奇妙な仮面。
右半分が男性、左半分が女性の顔をしたそれを被ったことで、僕は今の女性の姿に変身したんだ。
その仮面は神様に預けてあって、もう一度それを被ることで僕は元の男の姿に戻れる。
何でこんなことをするのかというと、それは僕がさっきまで使用していた
前回の冒険で他ゲームである
それらの装備品は神様の発案で、運営本部には秘密裏に隠しておくことになった。
というのも、以前に僕は報復の蛇剣・
毎度ナゾの進化を
今回はそうならないよう、運営本部の手が及ばない
だから普段、僕は
でも、いざという時には使う必要があるから、運営本部に隠して使えるよう
そしてそれを使う僕も容姿とステータスを別人に変えたってわけだ。
こうすることでさっきの一連の動きは、僕とはまったくの別人アルフリーダが、まったく別の装備品で戦ったことになっているんだ。
ただ、アルフリーダというNPCは神様がでっち上げた本来ならば存在しないキャラだから、あまり長く武器を使って戦うと運営本部に怪しまれる。
それを危惧して神様は
この事情は神様と僕の他には一部の人にしか知られていない。
その一部の人の中にミランダやジェネットたちは入っていた。
ただ、具体的にどんな姿に変身するのかは実際にこうして変わるまで僕自身も知らされていなかったんだ。
当然、ミランダたちもこうして実際に変身した僕の姿を見るのは初めてのことだから、さすがに面食らっている。
だけど……。
「ノアは知らなかったぞ。隠しておったのか?」
ノアは不満げに
彼女だけは何も知らなかった。
実はそれには事情がある。
「いや、別に隠してたわけじゃ……」
そんな僕の言葉を
「あんた。
そう。
神様がこの話をしたのは
ノアはそんなこと忘れたと言わんばかりに僕に
「アルフレッド。ノアだけ
「いや、ごめんごめん。ちゃんと後で説明すればよかったね」
「アル様。そんなことを言ってノアを甘やかしてはいけません。我が主の話をちゃんと聞いていなかったのが悪いのですから」
そう言うジェネットに
「ですがまさか女性の姿になられるとは思いませんでした」
そう言ってジェネットはマジマジと僕の姿を見つめる。
うぅ……何だか恥ずかしいな。
彼女の言う通り、
僕が僕ではない何者かに変身するとは言われていたけれど、名前や容姿、性別などは何一つ知らされていなかった。
彼女たちが
僕自身も
「僕もさっき神様から変身用の仮面を渡された時に初めて知ったんだ。さすがにビックリしたけど、これなら僕がアルフレッドだってバレないかな?」
そう言う僕をジェネットだけじゃなく、ミランダもじっくりと値踏みするかのように見つめてくる。
そしてフッと口の
「アル。あんたって女になっても地味な顔ね」
ほっといてくれ!
相変わらず
「
「……い、いいよジェネット。無理に
「す、すみません……と、ところでアル様。いかがですか? 女性になられたご気分は」
「う、うん。女性になったと言っても見た目だけで、中身は男の僕のままだからね。正直どう振る舞っていいのか戸惑うよ」
あくまでも仮の姿だけど、このアルフリーダでいる時は女性らしくしていないと不自然だろうか。
女性らしくなんて僕には無理だと思うけど。
自分の体をしげしげと見つめる僕の前にノアがズイッと踏み込んできた。
「アルフリーダ……何やら奇妙な感じだ。そなたが女子になるなど……」
そう言うとノアはいきなり手を伸ばし、僕の胸をまさぐってくる。
「ひえっ! な、何を……」
「そなた……女子とは名ばかりで
理不尽なこと言うな!
それは僕のせいではありませんよ!
僕の困惑を代弁してくれようとしたのか、ミランダがピシャリとノアの手を払いのけた。
「馬鹿言ってんじゃないわよ。ノア。だいたい胸ペッタンコのあんたに言えたことじゃないでしょ。アルだってそう思ってるわよ」
コラコラーッ!
思ってないから!
ほらほら、ミランダがそんなこと言うからノアが自分の胸を両手で押さえながら怒りに打ち震えて僕を
「ノ、ノアはまだこれから成長するのだ! 一緒にするなアルフリーダ!」
いや僕じゃないよ?
僕、何も言ってないからね?
「ほらほら。いつまでもふざけている場合じゃありませんよ。アニヒレートがいつまた戻って来るかも分からないのですから。とにかく一度、街に戻りましょう」
そう言ってジェネットが率先して歩き出したところで僕は皆を呼び止めた。
ついつい、いつものノリに飲み込まれて言い忘れそうになったけれど……。
「待って。皆に伝えることがあるんだ」
僕の言葉に3人は立ち止まる。
そこで僕は街中で起きたことを彼女たちに話した。
サムライ少女アナリンが現れてヴィクトリアとアリアナが手痛い傷を負ってしまったこと。
そしてアナリンによって王様が
「ジェネット。神様はアナリンのことを知っていたみたいなんだ。何か聞いていない?」
僕の話にジェネットは
そして僕らを
「とにかく歩きながら話しましょう。街の被害状況も確認しなければなりません」
そう言う彼女の先導で僕らは再び街の中へと足を向けた。
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