9

 アクスーキングに建てられている大きな病院。

 そこからエクレシアとイリス、アクホーン教やイーシズ教の連中がぞろぞろと出てくる。

 それを見た俺や冒険者達は、すぐさま彼女らに寄り付き野次馬と化す。


「恭介の容態は?」

「大丈夫、麻酔魔法で苦しみは感じなくなったわ」

「ですが、今回ばかりはアクホーン教の連中と力を合わせ呪いを解こうとしたのですが、強力かつ複雑な魔法陣で構成されて、無理にでも解いてしまえば……」


 病院から出た連中も、イリスと同じこと言ったんだろう、話を聞いた冒険者達が呆然としてる。

 そんな意気消沈とした空気の中、両手で頬を思いっきり叩いて気合入れ直したアリスが、ネコマタの首根っこを掴み持ち上げる。


「ふぇ!? な、なんや!?」


 そして、一人と一匹が街の外に出て行こうと。


「おい、酒乱から解放されたロリっ子。どこ行く気だ?」


 俺はすぐさまアリスに声をかける。


「アタシとしたことが、ちょっとあのナルシストに借りができちゃったからね。借りを作るのはソフィ様の子孫たるアタシにとって屈辱だから、とっととあの蝙蝠人間倒して返そうって思ってね」


 このツンデレがいくらネコマタ同行だとしても、幹部相手では絶対に勝ち目はない。

 ま、本人が否定しようともこいつらは。


「私も一緒に行くわ。魔法使いは接近戦には向いてないし、前衛が必要でしょ?」

「ワタクシも同行いたします! お姉様が行く道にどこまでもついて行くと、冒険に出る前から決めていたことですし、何より負傷した場合、回復が必要な時があるかもしれません」


 エクレシアとイリスも行くと宣言。

 ……俺、本当は行きたくないのに、なんでかな?


「こんなポンコツどもじゃまーたネコマタみたいな敵と遭遇した場合、弄ばれて泣きながら帰ってくるのがオチだ。そう言う相手対策に、俺が作った道具が役立つだろ。それにあと半日でリアクターの充電が完了するしさ」


 アリスはそんな俺たちを渋い表情で見つめてたが、観念したように肩を落とす。


「しょうがないわね、一緒に行って死んでも怨まないでよ。まぁ、その例のスーツって奴を着ていないあんたが一番心配だけど、イリスはアタシの自慢の妹だし、エクレシアも動きが俊敏で相手の動きに合わせて有利に戦えるし、みんなちゃんと実力持ってるからね。その心配はないか」


 そう言って微かに笑み浮かべてるけど、現にそのGに喰われ殺されそうになったのがどこの誰かなのか分かって言っているのかしら?

 ん? G?? なんか一人忘れてるような……。


「……ってかアリス、お前ここに来る途中に襲ってきた突撃猪とつげきししに背後から突き飛ばされて泣いてただろーが。 あんなのはアタシの魔法でイチコロって言ってたのに」

「よっ!? 余計なことは思い出さなくてもいいわよ!!」


 俺が咄嗟に言った思い出に対して慌てるアリス。

 それが可笑しかったのだろうか、エクレシアがクスクス笑い出したよ。

 それを呆気なく見ていたイリスも、恥ずかしながら怒ってたアリスも、そして俺も。

 まるですごいスピードで伝染したかのようにみんな揃って大笑いだ。


 なんて言うか、奴隷から解放された後を振り返ってみると、結構大変な毎日だったと思う。

 エクレシアは変な仲間を集めちゃうし、チリも余計なことして何度振り回されてきたことやら。


 忘れてた一人を思い出したわ。チリの姿が見えねえがどこ行ったあいつ?


 それはさておき、アリスは王道雰囲気を読まずブチ壊したり、イリスは勧誘やら戦争やらで宗職と言えどもやってることはめちゃくちゃだし、ネコマタも犯罪になりそうなことばかりやってるし。

 でもそんな奴らとG退治したりセミ狩りしたり、今は魔王軍幹部に挑もうとしたり……。


 問題ばかり起こすポンコツ連中だけど、心の奥底からこの一言が思い浮かんだよ。


 ……案外楽しかったって。


 そうか。俺、こんなロクでもない連中のことを、案外気に入ってたみたいだ。


「よし!! あのヴァンパイア幹部をサクッと倒してナルシスト勇者様を救おうと……」

「ま、待ってくれ!!」


 俺が最後に一言を言うところに、病院の入り口から患者服を着た恭介が話しかけてくる。

 いやお前安静にしてろよ、体ふらふらじゃねえか。


「きょ、恭介!? ダメよまだ安静にしてないと……、これって」


 エクレシアが恭介を止めようとした時、恭介は押し付けるような形でエクレシアに剣を渡す。


「転生した際、女神アルミス様から託された『雷神の剣』だ。ヴァンパイアなどのアンデッドモンスターは、通常の武器では効き目はないけど、この剣の攻撃なら……。」


 渡した瞬間に力が抜け、蹲み込んでしまう恭介。


「本当は勇者である僕も一緒に行きたい。幹部の攻撃からなんとしてでも君を守りたい。だけど、この状態じゃとても……。だから」


 辛そうな顔しながらも、痩せ我慢しながら真剣な顔して俺の顔を見つめ。


「エクレシアを……、頼……む……」


 そう言い残し、再び気を失った。


「……恭介のことを、よろしくお願いします!」


 エクレシアは近場にいた冒険者達に恭介のことを頼んだ後、渡された雷神の剣を装備する。

 この時の彼女の顔は、俺から見たらまさに勇者そのものだった。

 仲間の思いを胸に、世界を脅かす邪悪な存在を倒すような、王道的勇者様に見えてしまうよ。

……恭介がチリの写真見て色々誤解し突っかかってきたのも、エクレシアに執着するのも、なんとなく分かった気がする。

 そんなこと考えながら俺は、宿からパリカールと馬車を引き出し。


「みんな行くわよ!! なんとしてでも幹部を倒して恭介を救う!!」

「上等よ!! アタシが恥をかいた元凶は全てあのヴァンパイアのせいだからね、上級魔法で消しとばしてやる!!」

「ワタクシも全力を出しますわ! ヴァンパイアなどのアンデッドモンスターには回復魔法が結構効きやすいと言われているので期待してくださいまし!!」

「わ、儂はまだ行くと決めておらんのだけど!?」

「頼むっす、ロード・スレイヤーの出番はありませんように……」


 エクレシアの掛け声と共に、1匹除く仲間全員が。


 ……あれ? チリっていつから馬車に?

 そして今聞き逃してはいけないようなことを聞いたような……。


 そんな俺の不安はさて置くかのように、馬車はアクスーキングを出て、ヴァンパイアがいる例の城目指して走り出した。

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