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「ヤバイ! ヤバイ!! とにかく一旦外に向かうぞ!!」
「なんなんだあのデカブツは!? 硬さが異常すぎるだろ!?」
「どっからどう見てもあれゴーレムだろ!? なのになんで魔法が使えるわけ!?」
魔王軍のゴブリン達が俺から逃げる中、俺たち三人は一歩ずつ、鉱山の出入り口へと近づいてゆく。
奇襲してくるゴブリン達の攻撃も、このスーツに対して傷一つ付かない。
奴らは俺をゴーレムか何かと勘違いしているらしく、対ゴーレム用のハンマーで応戦する者もいたが、それすら効かない俺を見た途端、血相変えて逃げ出した。
そんな逃げ惑うゴブリン達に手腕内蔵式の火炎放射器で追撃した瞬間、奴らは魔法と勘違いしたらしく余計に恐れ、逃げ足が早くなる一方だ。
「わはぁ!! すごいっすね。鈍足なのがあれっすけど、耐久性や攻撃力は正規製作版と対等に渡り合えると言ってもいいっすよこれ」
「……ねえ、ひょっとしたら私達って、とんでもない物を作ったんじゃないかしら?」
ロリ宇宙人はようやく出れる思いから超ご機嫌良さそうだが、エクレシアは青ざめた顔で何か呟いているのが聞こえる。
二人が今どんな顔をしているか見てみたかったが、俺はゴブリン達に背を向けるわけにはいかない。
別にカッコつけてるわけではない。
ただこのスーツは急ごしらえで作ったせいもあるが、背面が非常に雑だ。
僅かな石油しかない燃料タンクや、冷却用のプロペラなど重要箇所が剥き出し状態である。
その箇所もそこそこ耐久性はあるものの、前方面よりはかなり脆く、当たりどころが悪ければ一本の矢だけで爆破なんてこともあり得る。
だからとにかく後ろからの奇襲の対処はエクレシアに任せて、俺は前方の敵を蹴散らし前へと進み続けた。
そして鉱山の出入り口を抜けると……。
「うぉぉぉい!? なんじゃこりゃ!?」
「え? あれゴーレム? ゴーレムなのあれ!?」
「あいつだあいつ!! 俺たちの攻撃が微塵とも効かない硬さを持つわけわからないゴーレムってのは!」
戦闘真っ最中の魔物も人も、俺の姿を見た途端に戦いの手を止めちゃったよ。
ある者は目を点にして呆然と俺を見つめ、ある者は俺を見るなり騒ぎ出したりと、まあこんな場違いすぎる奴が現れたらそりゃそうなるわな。
そう思いながら辺りを見渡すと、例のオークと激しく鍔迫り合いしていたような漆黒の鎧を着た髭生やしている剣士を見つけた。
あれがエクレシアが言ってた四人のうち一人の勇者ってやつかしら? 筋肉質で暑苦しそう。
「あいつです、トカッツン様!! あのわけわからないゴーレムが俺たちを!」
「確かに妙なゴーレムだが……、どうも俺たちのような魔王軍特有の魔力が感じ取れんな……。構わん、マジックゾンビ供!! 奴を蹴散らせ!!」
オークの命令と共に、俺の周りを闇色のローブをかぶった魔導師風のゾンビ達が囲む。
そしてゾンビ達は俺に向け杖を突き立て、何やら詠唱を唱えた途端、杖の先端からそれぞれ火の玉や雹弾や雷など、いろんなもんを俺目掛けて飛ばしてくる。
これが魔法という物だろうか?
そう思っていたら次々と俺に命中するも、流石は伝説の鎧を装甲の素材にしただけはあるようだ。剣弓同様傷一つもつかない。
ゾンビ達が驚き怯んだ隙に。
「じゃあ、今度は俺の番だ」
俺は再び火炎放射器から炎をぶっ放し、次々とゾンビ供を燃やしていく。
燃えたゾンビ達は、自身に燃え移った火を消すかのように地に伏しゴロゴロ回るも、そのまま灰となって消滅した。
「その声は!! 貴様!? 一体どういう事だ!? 鉱山から血相変え逃げていったゴブリン共が言うには攻撃が効かないやらトロールがワンパンでやられたとか言ってたけどな、今はっきりとお前の仕業だって理解できたぞ!! その格好は一体なんだ!?」
オークの問いに反応するかのように、ライアンって言う勇者も、同行してきた騎士も魔王軍もみんな、視線を俺に向けてくる。
だけど唯一違う点があるとしたら、魔王軍は俺に対して武器を構えて、勇者っぽい奴と騎士達はまだ、俺のことを敵か味方かわからなそうに見える。
「ま、魔王軍を倒したからして、あのゴーレムは俺たちの味方なのか……って! エクレシア!!」
「ライアン!! そのゴーレムは味方よ!」
鉱山からひょっこり出てきたエクレシアを見るなりパァっと明るい表情になって驚いたり、エクレシアが声をかけたことからして、やっぱりあの筋肉質の髭男がライアンってやつか。
って思った瞬間、オークが飛躍して急接近。
そして俺に向けアダマンタイト製の棍棒を渾身の力を込め振り下ろす。
棍棒は俺の脳天を直撃し、その振動がスーツ全体に響き渡る。
叩く音といい、振動といい、着ていた俺にとってはちょっと変な感触だったよ。
その一瞬の出来事に周りにいる全員が驚き、その中でたった一人片頬を斜め上に微かに上げニヤけるオーク。
……が、その直後に棍棒は、俺の当たった箇所から徐々に、音を立てながら全身にヒビが入って……。
「……え? おい、どうなって」
オークのニヤけ顔から困惑顔になった途端、アダマンタイト製棍棒は粉々に砕け散った。
ちなみに中の俺は当然無事だが、メットがすごくヘコんでいる。
恐ェェェ……、流石は幹部ってだけはある。あとちょっとで頭に当たるところだった……。
「う、嘘だろ!? この棍棒はアダマンタイト製だぞ!? その棍棒を粉々にって……」
流石のオークもこの出来事にちょっとうろたえてる。
今なら隙だらけだし、今のうちにやっちゃうか。
俺はそう思いながら腕をオーク目掛け伸ばし、内蔵式徹甲弾を放とうとした途端。
『バキン!』
足元から大きな音が鳴り響いたのと同時に、急に体が重くなって体制を崩し、膝をついた。
まさか、さっきの一撃の衝撃にパワーアシスト機構の一部が耐えきれなかったんじゃ……!?
「ふ、ふざけるなよ……アダマンタイト以上の硬度を持っているからっていい気になりやがって!!」
やばいやばいやばい!! オークこっち見てる!! 発情期ごろになると荒れる猪並みに恐い顔でめっちゃこっち見てる!!
「俺はトカッツン様だぞ!!末席といえども魔王軍幹部の一人なんだぞ!!こんなガキ如きに遅れを取ってたまるかァァァ!!」
そう叫んだオークが俺目掛けて拳を振り下ろしてきやがった!!
……やばい、俺フルボッコ。
そう思った時、エクレシアが俺を守るようにオークの前に立ちはだかり、俺が作った剣でオークの拳を止めた。
「彼は絶対……、私が守る!!」
「邪魔だ勇者!!」
オークはエクレシアから剣を奪い投げ捨てると、空いているもう片方の手で殴り飛ばす。
それを見た瞬間、俺の中の何かが切れた……。
「……おい豚カツ」
「とっ!?豚カツだぁ!?」
俺の一言に素っ頓狂な声を上げ額に血管が浮き出たオーク。
普通に見ても恐ろしい顔に加え、さらに怖さが倍増する表情になったが、俺は怖さよりも怒りが上回る。そして……。
「てめぇエクレシアに対して何してんだゴルァァァァ!!!」
人間特有スキル、怒りの馬鹿力で重い顔を上げ、オークの顔面に0.07ミリ頭部バルカンを連射。オークの目を潰した。
「ふぎゃぁぁぁぁ!!! 目がぁ!! 目ェェェがぁァァァ!!!」
膝を付き両手を目に当て苦しむオーク。
「てめえだけは絶対に許さん!! ここで仕留めて夕食のおかずにしてやるァァァ!!」
俺はすぐさまロケットエンジンを起動させ、凄まじい速さで低空飛行飛行しながら突進し、オークもろとも森林の中を飛行する。
「なんだァァァ!? 転生者か!? 誰かに召喚された奴か!? お前は一体何者なんだァァァ!?」
「俺は、ただの……、誘拐された後の事故でこっちに落っこちた一般市民だぁぁぁ!!」
込み上げてくる怒りで、自分が何を言っているのかわからなかった。
___バガン! ボガン! バキン!
森の中を飛んでる最中、オークを盾に木にぶつかり折り倒し続け、限界がきていたスーツはロケットエンジンに耐え切れず空中分解。
スーツのパーツのほとんど剥がれ落ち、俺は草原に転がりながら墜落し、オークは岩壁ではない銀色の壁らしき物にぶつかり、そのまま地に落ち倒れる。
……今の俺は、転がってる際にあらゆる箇所を打ち、打撲だらけで立ち上がることさえできない。
けどそれはオークも同じみたいだ。
いや、顔をずらしてオークを見てみたらそんなレベルじゃなく、あのロケットタックルが結構効いたんだろう。全身から黒い粒子を放出しながら薄くなっていく。
「し……信じられねえ……。まさかこの俺が……、こんなガキにやられるなんてな……」
少しショック染みた声でそう呟くオークだが、その直後、満足そうに『フっ』と満足そうに軽く笑った。
「負けたのは屈辱だが……、お前のような馬鹿にやられるのも、悪くはなかったかもな」
負け惜しみを言い終えたのと同時に、オークは消滅し消えた。
魔王軍幹部らしいカッコつけての終わりかただったが、俺はそんなことより気になることがある。
オークがぶつかった銀色の壁だ。
……いや、これどっからどう見ても壁って言うよりあれだ。
なんて言うか、全体で見ると楕円形で、中央部が下手すぎるほど出っ張ってて、その部位にドアやら窓などたくさん取り付けられて……。
もしかするとこれって、あれじゃないのか!?
自分で勝手に予想し近づこうとするも、打撲だらけの全身で立って歩く程の体力は今のところない。
むしろ瀕死状態と言ってもいいほどだ。
そればかりか、そんな危機的状況下に周りには人どころかモンスター一匹も見当たらない。
俺は、ここで終わるのか?
そう思いながら、自分の意思とは関係なく目がゆっくりと閉じていき、徐々に意識が遠のいで…………。
………ル、……ール、ヒール、ヒール!!
一番新しく聞き覚えがある声と共に、体の痛みが徐々に消えていくのを感じる。
俺がゆっくりと目蓋を開いてみると、目の前には涙目で必死になっているエクレシアの顔が。
「え……エクレシ……ア?」
「ツクル……、ツクルぅぅぅ!!」
目が覚めた俺に気づいたエクレシアは、満面笑みの泣きっ面で俺に抱きついてくる。
ちょっと、事情がよくわからないけどこれだけは言える。なんか照れ臭い。
「お前やるじゃねえか、あんな変な鎧だけで魔王軍幹部を倒してしまうなんてよ」
「ちょっと!! まずは『生きててよかったな』とかの言葉を言うのが先でしょ!?」
「まあまあ、俺の予想だとあの二人は多分あれな関係だと思うから。空気読んでそっとしてやろうぜ……クッソ!! イチャラブ見てると尻痒くなるわい!!」
お尻が痒いと言いながら羨ましそうに見てくるライアンが親しげに話しかけた、若手の男剣士っぽい青年と魔法使いっぽい少女は、おそらく彼のパーティーメンバーなのだろうか?
そして周りに多くの騎士たち。
よかった、なんやかんや死にかけだったけど上手くいったわ。俺は助かったんだ……。
「にしてもなんなんだこのでかいのは?」
「金属で作られてるにしては、妙な形をしているような……」
そう思ってた時、エクレシアの背後の騎士二人の会話を聞いて、思い出したかのように立ち上がり再び例の巨大金属を凝視する俺。
……これ、やっぱりひょっとしたら!!
「あったぁぁぁ!! アタイが乗ってきた宇宙船『UFO号』!! センパーイ!!」
すぐ近くにいたロリ宇宙人がそれを見るなり、ギャグ漫画のような駆け足で駆け寄る。
騎士たちの止める忠告も聞かずよじ登ったのち、手を触れた途端入り口が開きそのまま入る。
「え!? 穴!?」
「ちょっ、どう言うこと!?」
「お、落ち着いてください……って言っても無理だと思いますが。現に私も驚いていますし……、とにかく、我々が中に入ってあの子を見つけますので皆さんはそのまま待機してください」
困惑する騎士達にライアンは、自身のパーティーを率いて自ら入り口から潜入した。
「俺もいくぞ!! ひょっとしたら帰れるかも!!」
「え!? ちょっとツクル!? あなた病み上がりみたいなもんだから無茶は」
俺も入り口から入り、心配してくれているエクレシアも同行して来た。
そしてこの銀の物体は間違いなく、俺がこの世界に来た全ての元凶である宇宙船に間違いはない!!
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