第7話 醜い嫉妬
その日の放課後、亜香里と一緒に学校の体育館を訪れる。
入り口からバレー部がスパイク練習をしてるのが見える。
制服を着てるやつがいなくて絶賛入りづらい。
「お兄、こっち」
こいつはお構いなしに中に入っていく。俺いらないんじゃね?
「袖を引っ張るな。あと俺のことは学校では先輩と呼べ」
実の妹でも無いのにお兄と呼ばれるのは周りから変に思われるだろう。さらに亜香里は美少女だから、自称お兄ちゃんが大量発生してしまうに違いない。
「後輩フェチ?」
「なぜそうなる」
「お兄はお兄。呼び方はこのままでいい」
「さいですか」
俺は諦めて、コート端を歩いていく。
体育館の真ん中の白いネットを潜ってバスケ部が練習してる場所に入る。
「は?何で男子と女子が一緒に練習してんだ?」
男子と女子がハーフコートでそれぞれ練習をするのならわかる。
だが今俺らが見てるのは、男女混合のオールコート1on1である。
「ここは女バスが強いことで有名。男バス相手が練習相手にちょうど良い」
さらっと解説する亜香里。その情報はどっから仕入れてるんだよ。
「あっ、お姉」
「いぃ!?」
変な声が出てしまったのは許して欲しい。
男子相手にポニーテールを揺らしてドリブルをつく女子は、俺が良く知ってる五橋望美だった。
正直、理解が追いつかない。
色んな部活で助っ人やってると望美が言っていたので、そりゃあバスケ部に参加していても不思議ではない。ないのだ。だが、
ーーー男と練習してるなんて聞いてねぇよ!
ほら、ディフェンスしてるやつの顔を見てみろ。舌をだしてやがる。キンモイ。キモすぎる。あいつ絶対望美のこと狙ってやがる。望美の汗を舐め取りそうな勢いである。ちゃんとディフェンスしろ。あ、やっぱりするな。近いぞ。こいつ、望美の胸ばっかり見てないか?目を潰すか。肩をぶつけるな。息を吹きかけるな。寄るな。セクハラだ。触るな。触るな。触るなーーー
「ーーーい、お兄?」
「あ?」
亜香里の呼び掛けで我に還る。
いつの間にか、コートの中心までボールを運んでいた望美はドリブルを止めて、真っ青な顔で俺を見ている。
さらに、男女バスケ部の連中全員から強烈な視線を感じる。
「やっちゃったね、お兄」
唯一、亜香里だけが平常運転である。
どうやら俺はとんでもない嫉妬心を外部に漏らし、視線で望美の相手をしていた男を殺そうとしていたらしい。
舌を出してディフェンスしていた男はその場で静かに尻餅をついた。
完全に俺のオフェンスチャージである。
「やぁ、えっと・・・何の用かな?水谷颯人くん」
見たことある顔が近づいてくる。誰だっけ?ああ、去年教室に来てバスケ部に俺を勧誘した人だ。名前は確か・・・
「竜ヶ崎先輩でしたっけ?お疲れ様です。練習の邪魔してすみません。今日はマネージャー志望の子を連れて来ました」
「ああ、びっくりしただけだから別にいいんだけどね。この子?何か五橋さんに似てるね」
「初めまして、五橋亜香里です」
「まさかの妹さん?」
「お姉がお世話に?なってます?」
何で疑問系なんだ。
「なるほど、話はわかった。ちょっと女バスのキャプテン呼んでくるから待ってて。ーーーよし!一旦みんな休憩!!」
指示を出す竜ヶ崎先輩。どうやら男バスのキャプテンはこの人らしい。
身長は俺より少し高いくらいの短髪黒髪。ポジションは確かフォワードだった気がする。
竜ヶ崎先輩が誰かを手招きしている。近づいてくるこの人が女バスのキャプテンだろうか。
「水谷くんだっけ?わたしは女バス主将の金森です」
バスケ一筋ってTシャツに書いてあるこの人は黒髪ベリーショートの俺より少し背が高い女の人だった。絶対この人のポジションはセンターだと思う。
「こんにちは。マネージャー志望の子を連れて来ました。あと俺、帰って良いですか?」
「待って待って。水谷くんもバスケ経験者よね?一緒にやらない?」
「驚きましたよ。まさか男女で混ざって練習してるなんて」
「うちら女バスは強くなりたいからみんなで話し合って、大会が近くなったら男バスと混合で練習してるんだよ。ほら、オールコート使いたい時も便利だしさ」
俺が言いたいのはそこじゃないが。
「そうなんですね」
「さっきのはびっくりしたよ。ノゾミンのために何がとは言わないけれど」
ほとんど言ってるじゃないか。
「練習の邪魔になってしまい、すみませんでした」
「あ、自覚はあるんだね?」
無自覚で殺気出すけどね。周りの反応で気づく感じ。自分で言うのもなんだが、完全に拗らせている。
「いや、俺じゃなくて今日はこいつがメインでしょ?」
「亜香里ちゃんのことは知ってるもん。何回か遊んだことあるし」
「そうなのか?」
「わたしと金森先輩はアイス友達」
どんな友達だ。そしてやっぱり俺いらなかったじゃねーか。
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