2-裏-4

 ギリシャ神話では、プロメテウスという神が人間に火を与えたそうだ。それが本当かどうかはさておき、神がわざわざ人間に与えるほど、火が人間にとって特別であることには変わりないだろう。他の動物は、火を起こせないし、火を恐れる。人類の進歩のその大きな一助に火は貢献したのだ。

 だが、ナイフも紐も何もない状態から火を起こせる現代人がどれほどの数いるだろう。もちろん、俺にも無理だ。

 結局、俺はほとんど周りの見えない暗闇の中で、木に寄りかかって座っていた。今、自分がどこにいるのか皆目見当もつかない。体も冷え切って手も少し動かしにくい。

 このまま死ぬのだろうか、そんな考えが頭をよぎった。死因は低体温症と言ったところか。星も見えない空を見上げて、死んだらまたあの最初の木のところに戻るのだろうかと考える。

 死んだら戻る、そう考えれば確かに死ぬのも通過点のようにも思えた。よくよく考えれば、眠るという行為も自ら死ぬ行為と対して変わりはない。自ら意識を失っているのだ。眠ればそれっきりかもしれない。それでも、人が眠ることができるのは目が覚めると、明日があると経験則的に知っているからだ。なら、彼女が、あの少女が、死を恐れないのも当たり前といえば当たり前なのかもしれない。ただ、俺にはその経験が足りないんだ。死んで生き返るという異常な事態になれるほどに俺は輪廻を繰り返せていない。

 やっぱり、あの時、逃げるべきではなかったとそう思わずにはいられない状況だった。

 もう体を動かすこともけだるく、ただ真っ暗な空を眺めることしかできなかった。

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