第四話:スマートホーン

「見て下さい! 魔道具の中に人が居ますよ!」

「本当だ!」


 一体どういう原理なんだろう?

 魔道具の中で棒の様な物を手に持ったお姉さんが手を振りこちらを見ている。

 見た事もない魔道具の登場に僕もフリアラも興奮気味だ。


「これってどうやって中に人が入っているのですか?」

「もしかしてフェアリーとかそういう類ですか?」

「いや、そういうわけじゃない。これは『スマートフォン』、略して『スマホ』という物らしい」


 すまーとほーん? 略してすまほ?


「誰がこれを作ったのかは知らないが、映像を映し出す投影石、遠くの人の声も拾える共鳴石を組み合わせて作られた物らしい。結構複雑な造りらしいぞ」


 この魔道具も魔石でできているのか。

 魔石は大きく二種類、魔石とマナ魔石に分けられ、どちらも日常生活で広く使われている。

 

 例えば夜道を照らす街灯。これには発光石という、自ら光を放つ魔石が利用されている。

 他にも鍛冶屋で使う火には火炎石の力を、食材を長持ちさせる為に氷結石の力を利用している。

 

 今挙げた例は全てマナ魔石が使用されている。

 では通常の魔石はどう利用されているのかというと、そのマナ魔石の魔力を補う燃料として利用される。


 魔石はモンスターを倒すと出てくるので、冒険者はモンスターを倒した戦利品としてこの魔石をギルドに持ち帰り、換金してもらう事が多い。

 ちなみに僕の生まれた村はど田舎すぎて魔石の存在すら知らなかった。

 村では魔法を使える人が居なかったから火を起こすのも一苦労だったし、食材を冷凍して長持ちさせるなんて事も考えた事が無かった。

 街の人達の生活の知恵には驚かされる。


 そしてこの魔石を利用している魔道具からは何やら声が聞こえてくるんだけど……


《さぁさぁ! パラディスク王国の首都ストゥーカで行われている春季フレール対抗戦の組み合わせ抽選会はいよいよ佳境を迎えます! 現在フレールランキング一位の大本命『ドラゴンスレイヤーズ』、それに次ぐランキング二位の『リックライヒ』、昨年は惜しくも本戦への出場を逃しましたがメキメキと頭角を現してきている『ネオガーデン』は既に出揃いました! この中から本戦への一番乗りを決めるのは一体どこになるのでしょうか!》


 お姉さんの熱い実況と会場らしき場所にいる人達の歓声がスマホとやらを通して聴こえてくる。


「まあ世界中の人を巻き込んだお祭りみたいなもんだ。もし機会があればお前達も試合を観てみるか、なんなら出てみたらいいと思うぞ」


 出場……はあんまりしたくないかなぁ。

 観るくらいならいいけど。


「そうですね! 一度出場してみたいです!」

「フリアラさん!?」


 フリアラは乗り気の様だ。


「だって折角冒険者になったんですよ? どうせなら大勢の観衆の中でフレールの一員として戦ってみたいじゃないですか! それにもし活躍すれば冒険者として注目されるかもしれませんよ?」

「それはそうかもしれないけど……」


 モンスター相手ならまだ分かるけど、人間相手に攻撃するのは抵抗が……


「いいんじゃないか? フリアラの言う様に活躍すれば知名度は上がる。それに声援を受けて戦うのは楽しいぞ。しかもお前達はヘクナ様の加護を受けている冒険者だ。絶対に活躍できるさ」

「楽しいって……。スカイさんは出た事があるんですか?」

「ああ、前に何度か出たぞ」

「結果はどうだったんですか?」

「内緒だ。だがプレーヴォのギルマスになったのは間違いなく対抗戦での活躍のおかげだ」


 対抗戦で活躍したから今の若さでギルマス……

 夢があるなぁ。


「お前達の冒険なんだから俺の事はどうでもいいだろ。他人の事を聞く時間があればまずは自分の未来を思い描いておいた方がいいぞ」


 それもそうだ。

 とはいえロスヘルを倒すために雨濡れの双葉と鳥籠のコウモリを探さなければならない。

 仮に見つかったとしても僕達が悪魔神と呼ばれている存在を倒せるのかどうか……


「暗い顔をするな。考える時間はたっぷりあるだろう。今日は宿に帰って二人で今後の計画を立ててみればいい」


 スカイさんは立ち上がりそう言うと僕達の目の前にパンパンに膨らんだ袋を差し出した。中からは何やらジャラジャラという音が聞こえている。


「何ですかこれは?」

「今日のお前達のクエスト報酬だ。受け取れ」


 重みのある袋を受け取り中身を見てみると中にはたくさんの金貨が入っていた。


「えっ? 魔獣一匹倒しただけでこんなに……?」

「ああ。これは正当な評価さ。俺の小遣いから少しオマケしといたがな」

「うわっ! 二十万ヘブンも入ってますよ!?」


 金額を数えたフリアラも驚く金額。

 ゴブリン一匹の討伐で確か一万ヘブン貰えるはずだから、単純計算で二十匹分だ。

 ちなみに酒場のバイトが日当五千円なので僕が四十日働いて貰える金額だ。


「お前達はクエストを受けていなかったから相場が分からんだろうが、魔獣一匹で三万ヘブンと入手した特大魔石が二万ヘブン、そして今回のクエスト達成報酬で十万ヘブン出ているぞ」


 何だか今まで酒場で働いていたのがバカバカしくなるくらいの数字だ。

 クエストの報酬ってこんなにも貰えたのか……


「残りの五万ヘブンはスカイさんが?」

「ああ。いくらヘクナ様の加護を受けた二人とはいえ、まさか原石級冒険者が二人だけで魔獣を倒すとは思っていなかったからな。そんな命懸けの仕事をしてくれたお前達への対価さ」


 スカイさんは本当に優しい。

 表情はいつも厳しそうな顔というか無表情なのだが、性格とのギャップもあり特に優しく感じる。


「スカイさん……! 一生付いて行きます!」

「やめろ気持ち悪い。さっさと旅立て」


 あんまり優しくないかもしれない。


〜本日のトピック〜


世界の地理編


この世界はアトランティス・ムー・レムリア・エデンの四つの大陸に分かれている

人間が多く住むのがアトランティス大陸であり、その他三つの大陸には人間以外の種族が多く住む

また、エデンに関しては未開拓領域でありどのような生物が存在するのかは確認されていない


ディズ達がいるパラディスク王国はアトランティス大陸に属しており、他にもヘルムル王国、シエイロ帝国、アンゲラ連邦の三つの国がある


今いるプレーヴォはパラディスク王国の中心部にあり王都であるストゥーカは南東部に、ディズ達が生まれ育ったヘイブン村は極西部にある


余談だがムーとレムリアにも人間は住んでいるらしい

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最後までお読みいただきありがとうございました。

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