熾天使ヘクナ編
第一話:命燃やすぜ!
「わぁぁぁぁぁ! 助けてぇぇぇぇぇ!」
「いい調子ですディズさん! そのまま敵を引き付けておいて下さい!」
いつまで逃げ続ければいいんだ──
僕は涙目になりながら後ろから迫り来る脅威から逃げ回っていた。
「グォォォォォ!」
唸り声を上げ僕の事を追ってくるのは悪魔が生み出すと言われているモンスター。
動物を模した黒い影、赤く染まる目を光らせるその姿から人々は『魔獣』と呼んでいる。
コロンさんが提示したクエストは街付近の森に巣を作ったこの魔獣の討伐だった。
「ひぃぃぃ! フリアラー! 魔法はまだー!?」
魔法の詠唱をしているフリアラの方を見ると彼女は両手を前に差し出し固まっていた。
「このままもう少しだけディズさんの逃げ惑う姿を楽しむのも悪くはないですね──」
「おぉぉぉぉぉい!」
いくら何でもこれは許されない……
帰ったら後でとっちめてやる……!
「さてと、ディズさん。かなり笑わせていただいたので、そろそろ魔獣から離れて下さい」
こっちは魔獣から逃げる事で精一杯なのに。
フリアラには血も涙もない。
「離れてって言われても振り払えないんだよー!」
「なら仕方がないですね。フレイム!」
やっと魔法を撃ってくれた……
これで助か──
「ほわぁぁぁぁぁ!」
ほんの一瞬熱さを感じて僕の目の前は真っ暗になった。
そして僕の体は燃え尽きた。
いい朝だ……。
周囲は眩い光に包まれ、目の前には翼に包まれた美人なお姉さんの生首が。
──生首?
「も、モンスターだっ!」
「誰がモンスターですか!」
目の前の生首に驚き慌てて立ち上がるが、よく見てみるとそれはモンスターではなく……
「あれ? ヘクナさんだ」
「このやりとりはもう三度目ですよ……。いい加減慣れてくれても良いんじゃないですか……?」
見慣れた顔だった。目の前に居る女性は熾天使ヘクナ。この世界を創造したと言われている天神ヘブンスに仕える天使の一人で、数多く存在する天使の中でも四人しか存在しない第一位天使の一角。要するに天使のお偉いさんである。
そんなお偉いさんが何で目の前に居るかって?
それは僕に加護を与えてくれたのがヘクナさんだからだ。
そしてヘクナさんが今僕の目の前に居るって事は──
「ええ。貴方は気を失って天界へと意識が飛ばされたのです」
やっぱり。ヘクナさんからの加護を受けてから僕は就寝中や意識を失った時、たまにヘクナさんにこの天界へと呼び出されるようになった。
「まったく。貴方達は一体何をしているのです」
ヘクナさんは呆れたような表情でこちらを見ている。
「だってあれはフリアラが……」
「言い訳は無用です。フリアラさんはずっと愚痴を漏らしていましたよ? 冒険に誘ったのはディズさんの方なのに『あるばいと』とやらに夢中でフリアラさんの事は放ったらかしだと」
「いやまぁ、確かにそうなんですけど……」
危険を冒してまでクエストでお金を稼ぐなら街の中でアルバイトをして自分達の宿泊している宿のお金を払った方が──
「冒険者なのに冒険をしなくてどうするのですか……」
「あの、心を読んで先回りされると僕のセリフが無くなっちゃうんですけど……」
あとついでに翼を退かせて生首の様な状態をどうにかして欲しい。
するとこちらの気持ちを汲み取ったヘクナさんは何も言わずに身体を包み込む六枚の大きな翼を広げる。
柔らかなフワフワとしたブロンドの髪にコロンさんと同じくらいの立派な物を持った身体が露わになる。
け、けしからん……!
「けしからんのは至って普通の真面目そうな外見をしているおバカさんでムッツリスケベなあなたの方です……」
バカはともかくスケベ心は男の人なら多少は持っていそうだけど……
「それに今日はとても大事なお話があって呼び出したのですから」
「大事な話?」
何だろう。もしかして
「今朝、何者かによって悪魔神ロスヘルの封印が解かれました」
悪魔神……ロスヘル!?
「──誰ですか?」
聞いた事のない名前だ。
「そうでした。人間はロスヘルの事を知らないのでしたね」
「初めて聞きました。それでそのローレル? ローリエ? がどうしたんですか?」
「ロスヘルです。あとローレルとローリエは同じ物ですよまったく──物忘れ大会があったらディズさんは間違いなく優勝できそうですね」
珍しくヘクナさんに褒められた!
何だか照れるなぁ。
「褒めてはいないんですけどね……。と、とにかく! そのロスヘルが復活した事によって悪魔達の動きがより活発になるかもしれません。そこでディズさんとフリアラさんにお願いがあるのですが……」
「お願いって……?」
「あなた達にロスヘルを討伐していただきたいのです」
今この天使様は何と仰られたんでしょうか?
悪魔神ロスヘル? の討伐を僕たちが?
「またまたご冗談を」
「冗談ではありません。ディズさんは天使と悪魔が未だに争いを続けているのはご存知ですね?」
「それはまぁ……」
「ロスヘルはその昔悪魔の軍勢を率いたとてつもなく恐ろしい悪魔です。その後ヘブンス様に敗れ封印されていたのですが……」
確かに昔話では天神ヘブンスが悪魔神を倒したお陰で下界が落ち着いたというものはある。
だけどその悪魔神の名前はロスヘルではなくルキエルだったはずだ。
「その復活した悪魔とルキエルは同一人物なんですか?」
「違います。人間向けの昔話ではルキエルが悪魔神として伝わっているみたいですが、この世に混沌をもたらした存在はロスヘルなのです」
「という事は……。もしかして、ヘクナさんは天使と悪魔の戦いに僕達が介入してめちゃくちゃ強い悪魔を自力で倒せって言ってるんですか!?」
「まあ言い方次第ですがそう捉えられても仕方ないのかもしれませんね……」
申し訳なさそうな顔を浮かべているけど言ってることは天使じゃなく悪魔じみている。
もしかしてヘクナさんって悪──
「やめて下さい。その言葉を言ったら地獄に突き落としますよ?」
「は、はい……」
怖い!
天使に笑顔で地獄に突き落とすって言われた!
天使のはずなのに!
「でもいくらヘクナさんの加護が強力でこれから先強力な武器を手に入れたとしても、多分僕とフリアラだけじゃ無理ですよ……」
「何も二人だけでロスヘルを倒せとは言ってはいません。大体これから旅に出るにあたってあなた達二人だけでは圧倒的に力不足なんですから」
それはだって他の人達とパーティー組んでもそこから展開が広がらないっていうか?
フレールに入ろうと思っても知り合いがいなくて物怖じしたりもするし……。
「はぁ。あなた達の天使として、一つ教えて差し上げます。──雨濡れの双葉と鳥籠のコウモリを手に入れるのです。きっとあなた達の助けとなるはずです。」
双葉……とコウモリ?
一体何のことだろう。
「あの、その事に関して詳しく──」
「どうやら本体はお目覚めの時間みたいです。ロスヘルの件はフリアラさんにもお伝え下さい。ではまたお会いしましょう」
「ちょっと待って! まだ──」
ヘクナさんの姿は薄れ、再び視界は闇に閉ざされた。悪魔神の討伐だなんて、なんだか大変な事になってしまった。
故郷の母さん、天使と悪魔の戦いに巻き込まれた僕は無事にいられるでしょうか──
〜本日のトピック〜
天使編
天使とはこの世界を創造したと言われている
天神ヘブンスに仕える存在であり
第一天使から第九天使までが存在している
下界に姿を表す天使の殆どは第七から第九天使である
下界の生物、とりわけ人間は個人としても集団としても
天使の加護を強く受けており
その代わりに敵対する悪魔を倒す役目を背負っている
冒険者が受ける天使の加護は一人につき一つであり
その強さは己の守護天使の階級によって変わる
さらに天使が二人以上の人間に加護を授ける事はない
世界中にある街や村に存在する守護天使の像には
モンスターの侵入を防ぐ効果があるが
像の掃除を怠る事や壊れるような事があれば
その効果は失われる
余談だがヘクナのスリーサイズは
上から91-63-94らしい
───────────────────────
最後までお読みいただきありがとうございました。
もしもこの物語が気になったり面白いと感じていただけた方がいらっしゃいましたら、フォローや♡、コメント、レビューをしていただけると、とても励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます