第189話ミリ程も残っていない

 そう、シャーリーは少しだけ申し訳なさそうにしつつも、残りはお土産として実家に持って帰って下さいとビーフンわさびや、きな粉味(その味がどのような味かは分かりませんが)のきび団子なる物などをわたくしを含めた参加している令嬢全てに渡してくる。


 家格が低いと根回しが大変なのだろう。


 只でさえ男爵という、あまり裕福ではなさそうな家格だというのに、いや、だからこそ貴族の世界で生きて行くにはそれなりの出費が必要なのだろう。


 そして、お土産を頂いた皆がその事を思っているのか、少しだけお茶会がしんみりした空気になってしまう。


 先程友達と言ってしまった手前助けてあげたいのはやまやまなのだが我が家にも公爵家としての立場がある為、こういったプライベートな空間以外での援助はなかなか難しい所がある。


 さて、どうしたものかと考えているとシャーリーが「皆様、初めて見るお菓子の数々にびっくりしておいででしょうが、ささ、早く食べて下さいなっ! きっと皆さまの想像を超えて来るとわたくしが保証致しますっ!!」ど、テーブルに積まれたお菓子類(シャーリー曰くこの袋や箱に入っている物はお菓子らしい)を食べようと催促して来るので、側で控えていたメイド達が封を開けて行きお皿へと中身を移して行く。


 その殆どが見たことも無い食べ物であり、その中でも唯一分かる物と言えばカントリーマダムと馬鈴薯を揚げた物くらいであろうか。


 流石に初めから見たことも無い食べ物を食べるのは勇気がいるので初めは味が想像できる物から食べましょうか。


 そうですわね……まずは馬鈴薯を薄くスライスして揚げた物、その中でも『こんそめ』という味から頂きましょうか。


 そしてわたくしは目の前のお皿に出された馬鈴薯を揚げた物を一枚摘まみ、食べる前に観察してみる。


 やけにオレンジ色をしておりますわね。


 これは本当に馬鈴薯なのでしょうか?人参だと言われても信じてしまいそうなくらいにはオレンジ色ですわね。


 これはもしかしたら馬鈴薯の色ではなくて、この馬鈴薯に味付けした調味料の色なのでは?まぁ、そんな事は食べてしまえば分かりますわ。


 そう思いながらわたくしは、手にした一枚を口へと運ぶ。


 すると『パリッ』とした音が最初にわたくしの耳と口の中を楽しませてくれる。


 こんな楽しい触感は初めて…………むぅっ!?


 しかし、その食感を長く楽しむ事は出来なかった。


 何故ならば今、わたくしの口の中と頭の中は『何これっ!?』と『美味しいっ!!』という言葉が入り乱れ、食感を楽しむ事に割く容量はミリ程も残っていないからだ。

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