第187話簪の他にも食べ物を持ってきておりますの

 そんな感じで当初のぴりついた空気などいつの間にか霧散しており、想像していたお茶会よりも楽しい一日になりそうだと思うのであった。





 初めは見下し、笑いものにしてやろうかと思っていた。


 そもそも、私たちの幸せとは家格で決まり、家格が高ければ高いほど幸せであると幼少期からそう教えられてきたし、その様なお考えのお母様やその他令嬢達を見て育ってきた私は、それが当然だと思い今まで生きて来た。


 そしてこの考えによって『他者に見下されては、その分自分の幸せが逃げていく』『逆に相手を見下せば私が幸せになる』とう思考となり、それを基準として今まで生活をしてきたし、令嬢達ともかかわって来た。


 その中でも一番幸せであると思っていたシャーリーがシュバルツ殿下に婚約破棄をされた。


 その時の私は彼女の事を憐れむと共に、私が幸せになる為の道具でもあると思う。


 そして、いざお茶会をセッティングしてシャーリーを呼んでみればどうだ。


 彼女は公爵家、それもシュバルツ殿下の婚約者から、男爵家、それも悪い噂の絶えないシノミヤ家に嫁いだとは思えない程、今までどの令嬢でも見たことが無い、自分の母親ですら見たことも無い幸せそうな表情をしているではないか。


 それに、彼女が着ている見たことも無い衣服に見たことも無い髪飾り、それら全てが美しく、それら全てが輝いて見え、私には眩しく映った。


 それと同時に、今までの常識が私の中で大きな音を立てて崩れていく音が聞こえて来ると同時にいままでの常識が全てうっとおしいしがらみにしか思えなくなってくる。


 相手を見下して、私は幸せになれたのだろうか?


 確かにその一瞬だけはスッとするのだがそれだけである。


 何一つ変わりやしない。


 むしろ互いが互いを食い殺してやろうというストレスで子供のころは楽しいと思えていたお茶会も今では楽しいどころか、できれば行きたくないと思ってしまっている自分がいた。


 あぁ、こんなものはもうやめだ。


 ばかばかしい。


 そう思った瞬間、たったそれだけの事で私は解き放たれたような感覚が押し寄せて来ると同時に、今このお茶会を、シャーリーとの会話を楽しいとさえ思えて来る。


 お茶会を楽しいと思えたのはいつぶりだろうか?


 もし、私が意固地のままでいたのならばこの一本かんざしの使い方も分からないままで、何一つ変わらないつまらないお茶会と、つまらない日常のままであった事だろう。


「シャーリー、貴女には感謝してもしきれないわ」

「感謝など、恐れ多いですわっ! 頭をお上げくださいましっ! あっ、そうでしたわ。 わたくし簪の他にも食べ物を持ってきておりますのっ!!」

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