第185話何ぼかマシであると言える

 そして、結局のところわたくしはこの日本から選んできたお土産で嫌な思いをさせるよりも良い思い出を差し上げたいという気持ちがある事も事実であり、その事も含めて悪者に成りきれないのかもしれない。


 次期王妃としてシュバルツ殿下の婚約者であった頃のわたくしであればいざ知らず、今のわたくしには、いや、今のわたくしだからこそ日本や旦那様、そして使用人達やそれに関係するもので他人に対して意地悪な事をしたくないと思える程に、皆様には良くして貰っているのであろう。


 はっきり言ってシュバルツ殿下の婚約であった時と、四ノ宮家に嫁いでからでは日々教えられる事は真逆であるとわたくしは思う。


 シュバルツ殿下の婚約者であった時は、他人に表情を読まれない為の仮面の被り方、より美しく見せるよな所作に窮屈な衣服、他人に見下されないようにする態度や教養などを中心で毎日毎日飽きもせず分刻みのレッスンを受けていた。


 そして四ノ宮家では分刻みのスケジュールなど無く、自然を感じ、四季を感じ、動植物を愛で、自然体で過ごす日々を今過ごしている。


 そんな生活を過ごしていると不思議な事にあんなにあの頃のわたくしがどれだけ無理をしていたのかが分かり出し、それと同時により一層他人への思いやりを持てるようになれたと自分でもその変化を感じ取れる事が出来る。


 あの頃は色々な物を詰め込みすぎて、自分の事で精一杯であり他人のことまで思いやれる事が出来なかったのであろう。


 そしてそれはペトラ含めてここに居る貴族令嬢達もきっと自分というハリボテを守る事に必死だからこそ、常に誰かしらでマウントを取り、安心したいのであろう。


 数少ない貴族令嬢の友達達とこの様に集まる事も出来なくなるので貴族社会に未練が無いと言えば嘘になるのだが、それでも生きていればいつかあの二人には会う事も出来るであろう。


 であれば、わざわざ化かし合いの罵り合いしかしないお茶会など行く必要も無いのでは? とすら思えてしまう。


 簪の使い方を教えた後、始まったお茶会でピーチクパーチクとマウントの取り合いをする令嬢達を見てそんな事を思ってしまう。


 はっきり言ってマウントの取り合いをするくらいならば今ここに連れてきている杏奈やさおりん達と恋話で花を咲かせた方が何ぼかマシであると言える。


「……しゃ、シャーリー様? 本日は一体どうしたのですの?まるで牙を抜かれたように張り合いが全く無いではございませんか。 コレでは弱い物イジメみたいですわ」

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