第164話紙幣

今日は朝早くから安奈としおりんで出かける事になったのだが、準備が必要との事でいつもより二時間程早く起き、待ち合わせの玄関まで向かう。


「とりあえずは動きやすい衣服の確保ね。道具は私のを貸してあげますね」

「あ、ありがとうございます。しかしながら、大変申し訳ないのですけれどもわたくしこの国の硬貨を持っておりませんわ……」

「あ、それなら大丈夫大丈夫っ!!旦那様から軍資金はたんまりとふんだくって、ではなくて貰って来てるからっ!!愛しい奥方様の為なんだから軍資金の一つや二つせしめる、じゃなくて頂く事なんて余裕ですよっ!なのでお金の心配はいりませんよっ、奥方様っ!」


そしてしおりんが用意した馬無し馬車へと乗り込み最初の目的地へと向かうのだが、まずはわたくしの服を買いに行くとの事。


新品の服は寸法を測ったりなんだりと仕立てなければならない為買いに行って直ぐに服が手元に来るものでは無い為恐らくは古着やなのだろうが、問題はそこではないし、今更新品が良いだとか中古は嫌だとか言える立場でもない事くらいは理解している。


一番の問題はわたくしは硬貨を、銅貨すら持っていないという事である。


これではパン一個すら買えやしない。


服なんて尚更である。


その事を伝えるのだが杏奈さんが今日の為に旦那様から軍資金を頂いてきたと、まるで悪代官の様な表情で言うではないか。


「む、無理やり奪ったんじゃないですわよねっ!?」

「大丈夫大丈夫。本当に嫌ならば雇用主という立場だけでも旦那様の方が上なんだから一銭も出さないでしょうしっと、ひいふうみい………おぉお……旦那様の愛が重いっ!!じゅ、じゅじゅじゅじゅじゅ、十万ってっ!?」


一応杏奈へ無理やり奪っていないか確認すると、無理やり奪った訳ではないと聞き一安心する。


そして安奈は封筒に入った、人の絵が描かれた紙を数えていく。


「その紙は何ですの?」

「あぁ、これはここ日本で使うお金ですよっ!!紙幣ですっ!!」

「その紙が、お金ですの?硬貨などは無いのですの?」

「硬貨もありますよー。因みに紙の方が価値が高くてですね、この紙一枚で金貨一枚ですよ」

「なっ!?きっ!?金貨一枚っ!?その紙がですのっ!?なんと面妖な」


紙も一応高級品ではあるものの、それでも金貨一枚よりかは価値が無い上に、紙だと破れてしまったり水に濡れてしまったり燃えて無くなってしまったりするではないか。


その紙で出来た物が硬貨よりも価値があるだなんて………ははーん、そういう事ですわねっ!!


「分かりましたわ杏奈っ!!わたくしはそんな簡単な嘘に引っかかったり致しませんわよっ!!これでも妃教育を受けて来た身ですものっ!!いくら日本の事が分からないわたくしと言えどもそれくらいの分別は出来ましてよっ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る