第91話きっとそうに違いない

「アイリスッ!!」


そしてアイリスへと手を伸ばし彼女の名前を叫ぶのだが、彼女は俺を他の者達と同じ様に見下し嫌悪した視線を向けた次の瞬間には路傍の石の如く、貴族が平民を見るが如く、俺から興味を無くしてグリム・フェルディナン・ダルトワと一緒にダルトワ家の中へと入っていく。


その姿が見えなくなり、扉が閉まるとそこにはただ立ち尽くし誰もいなくなったその先へ手を伸ばす自分だけが居た。


彼女だけは自分の味方であると思っていた。


彼女だけは最後まで側に居てくれると思っていた。


『そんな事では将来国王へ即位してから苦労致しますわよっ!』

『平民がいるから貴族が暮らせる。そして平民がいるから王の意味があるのですわ』

『決して偉ぶってはいけませんわ。いつかシュバルツ殿下へ跳ね返って来ますわよ』

『シュバルツ殿下はやればできるのですから、頑張りましょう。わたくしも側でお手伝い致しますわ』

『そんな悲しい事は言わないでくださいまし。わたくしはシュバルツ殿下の婚約者ですもの。お側で手伝わせて下さいませ』


それと共に懐かしい声を思い出す。


俺を捨てた女は俺の事を全く見ていなかった。


俺が捨てた女は、今思えば俺の事をしっかりと見ていてくれていた。


そこまで考え、そんな筈がないとかぶりを振る。


アイリスは俺の事を見てくれていた。


シャーリーは俺の事を馬鹿にしていた。


俺は何一つ間違ってなどいない。


アイリスは俺のために手始めにダルトワ家側に着いただけだ。


そしてあんな言葉や態度はグリム・フェルディナン・ダルトワを欺く為である。


きっとそうに違いない。


そして俺はダルトワ家の門を出て、シャーリーが居るはずのタリム領へ向かって歩き出す。



どれほど歩いただろうか。


ただただあの日の事を思い出したくなくて闇雲に歩いていた為ここが何処なのかも分からない。


あの日から何日経ったかも分からない。


平民にはスラムの住人と勘違いされてまるで犬猫の様に追い払われる始末。


食えそうな草を食べては吐いた。


虫を取って食べた。


もう流す涙もとうに枯れ果てた。


思い出すのはシャーリーの小言ばかり最近では思い出す。


「お頭っ!人がいやしたっ!どうしやすっ!?」

「あぁー………捨ておけ。どうせスラムの逸れ者だろう。襲った所で一銭の価値にもならんゴミ屑だ」

「へい」


そして、ただただ川沿いを歩いて居ると賊に出くわし、そして無視されて何処かへ行ってしまう。


「ぐぅぅぅううっ!この俺はっ!!俺の価値はっ!賊にすら見向きもされぬ程何も無いとでも言うのかっ!?」


『そんな事言わないで下さいまし。シュバルツ殿下の価値が下がりますわよ?』

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