第8話獣人特有の耳と尻尾
そう言って微笑む御者からは旦那様と呼ぶソウイチロウの事を凄く敬愛していることが窺えて来る。
これ程慕われている方をまるで要らなくなったオモチャを捨てるかの様に見捨てるソウイチロウという男性の人となりも見えて来るというものである。
この御者には悪いがとても良い人であるとは思えない。
恐らくソウイチロウという男性は『魔術を使える平民を集めるコレクター』なのであろう。
隣国の貴族界にも似たような人がいるらしい。
希少というだけで集めたがるのは貴族の悪い癖の一つだとわたくしは思う。
そしてソウイチロウは水魔術をこれほどまでに扱える彼女を切り捨てる事が出来る程集めているのであろう。
正に噂通りの人物であるのかもしれない、そう思いながらわたくしは慣れない手つきで野菜を洗っていく。
「ねぇ、あなたのお名前を教えて下さらないかしら。 いつまでも御者さんじゃ何だか悪い気が致しますし」
わたくしは嘘をついた。
本当は名前を知る者がいない中死んで行くのは余りにも不便であり、それはとても悲しい事だと思ったからである。
「あらあら、ごめんなさいね。気が利かなくてすみません。 私の名前ミヤーコ。 猫人族のミヤーコです」
基本的に上の者が聞いてくるまで名前を言ってはならないという我が国にある貴族間のルールを忠実に守っていただけに過ぎないのだから謝る必要は無いのだと言いかけて、止める。
今まで聞いてこなかった上の者が悪い、自分は悪くないと言おうものならどうなるか。
相手が平民ならば首を刎ねるバカが過去何人かいたのも原因だろう。
貴族がいたら視界から外れるように端へ逃げ、目を合わさず、消して名乗らない。
それが今の平民の中での貴族に対しての対応となってしまっているのは少しばかり心が痛むものの、シュバルツ殿下やわたくしのお父様に対してはそのような対応が一番であろうとも思う。
殺しはしないものの痛い目にあうのは火を見るより明らかである。
そんな事を思っていると御者が名乗りと共に深く被った頭の帽子を取り、スカートをたくし上げる。
そこには獣人特有の耳と尻尾があった。
「ビックリしましたか? 今まで隠しててごめんなさいね。汚いとお思いでしたら出来るだけ関わらない様に過ごしますので」
「わたくしの名前はシャーリー。 シャーリー・フェルディナン・ダルトワであり、そして今はシャーリー・フェルディナン・シノミヤですわ。 わたくしはあなたの事を汚いとは思っておりませんわ。 今まで通り宜しくお願い致しますわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます