第42話 昨日の敵は今日の友
維澄さんが私に対して「激しい嫉妬心」を見せたのは間違いはない。
私は維澄さんの激しい嫉妬を見て、「もう維澄さん、私のこと好きすぎるでしょう!?」
と一旦は浮かれてしまったりもしたが、冷静に考えて見れば全くそんなことはないという結論に落ち着いてしまった。
私は自分に有利な……つまり「嫉妬してもらえたんだから絶対それは脈あり!!」という意見を求めて、止めておけばいいのにネットで色々「嫉妬」について調べてしまった。
すると調べれば調べる程『嫉妬=恋愛感情ありとは思わない方がいい』という話ばかりがヒットする。
「他の人に取られるという不安」「自分が選ばれなくなる不安」は「自分の不利益」中心の考え方であって「相手を思う気持ち」とは違うのだ……とかなんとか。
たしかに、維澄さんは他人との関わりを頑なに避けてきた。これはまさに「自分を」守るため。
そして、私というまだまだ「薄い」友だち関係ができただけで、私に強い独占欲を見せたのもつまり「自分が」失いたくないという「自己中心的」な想い。
だからきっと私でなくても、維澄さんと少しでも近しい関係になる人が私以外にいたとしたならその人にも激しい独占欲を見せる可能性は大いにある気がする。
私にとっての唯一の救いはそんな人がいままでいなかったということだけだ。
今の維澄さんは「心のやじるし」が自分に向かっている。実際の恋愛感情は相手を思う気持ちだから「心のやじるし」は相手に向かわなければおかいい。
私は激しく嫉妬してもらえたことで、かなり浮かれたい気持ちなりたいのだが今はまだ焦らずじっくりと様子を見て行くことにした。
「少なくとも友だち」
今はこれだけで満足する。
そう決めた。
でも……
「あんたバカじゃないの?」
私がそんな最近の維澄さんへの想いを話し終えると、目の前の女性は少しも遠慮することなく私にそう言い放った。
「え?どうしてですか!?」
「ホントに、まあIZUMIもバカだけど、それに輪を掛けてあんたもバカだよ」
ていうか、なんでまたこの人が私の目の前にいるのよ?
…… …… ……
「いま、盛岡なんだけど会える?」
そう上條裕子社長から携帯に着信があったのが1時間前。
私に断るスキを1mmも与えず、自分から予定を告げるだけ告げて携帯を切ってしまった。
なんて強引な人なんだろう?
ほんと、なんでまた盛岡にいるのよ?社長だからって忙しそうにしてて、実は暇なんじゃないの?
「上條さんが維澄さんの近況を色々知りたいって言うから、やっと時間作って来てるのにその言い方って酷くないですか?」
「まあ、あんたも分った風に色々講釈するけど、結局まだまだ17歳の小娘ってことを言いたかったんだよ」
「維澄さんのことは色々間違いたくないんで必死に考えてるんです。普段はこんな頭使いません。維澄さんへの限定能力が発動してるんです」
「フン!くだならない」
「上條さん?もう帰っていいですか?」
「分ったよ、怒るなって……だからさ、もっとシンプルに考えなって」
「どういうことですか?」
「だからこんな小難しい解釈しなくても、IZUMIはあんたのこと大好きでしょ?」
「な、なんてこと……ひとごとだと思って安易にそう言うことはヤメテください。せっかく勘違いしないようにその考えひっこめたんですから」
「ひっこめる?なんで?若いんだからあんたからガンガンいかないでどうすんのよ?」
「そ、そんなことしたらまた殻に閉じこもるかもしれないじゃないですか?」
「大丈夫だよ、私を信じなさい。言わせてもらうけど、少なくとも私の方があんたより何倍もIZUMIとの関係は長いし深いんだから」
そんなことは分ってる。でも面と向かってそう言いきられると、歯ぎしりするほどに嫉妬心が湧きおこってしまう。
そうだ。私は維澄さんの嫉妬ばかりに気を取られてたけど私だってこの人への嫉妬心は半端ないのだ。本来ならこんな冷静に話をしていられる相手じゃないんだ。
「ほら、そんな恐い顔するなって。あんたまでそんな嫉妬に狂った顔しなくもいいでしょ?」
「狂いますよ!狂うにきまってるでしょ?私なんて維澄さんにはついこの間、会ったばかりだし、私ばっかり好き過ぎてる状況なんだから!」
「一応言っておくけど、私はあんたを励ますために言ったんだよ?」
「全くそうには見えませんが?」
私は不貞腐れて言ったものの……とっくに気づいている。
実際に上條さんの「IZUMIはあんたのこと過ぎすぎるでしょ」という一言で、私の悩みは吹き飛んでしまった。
上條さんが言う通り私なんか及びもしない程、いや間違いなく世界で一番に維澄さんのことを良く知っているのは上條さんだ。その上條さんがそう言っているのだからその説得力は絶大だ。
「私はね、神沼さんにはホント感謝してるからこそこんなに励ましてるんだよ?」
「な、なんですか急に」
「だってそうでしょ?私のせいで逃避行を続けていたIZUMIをなとか現実社会に引っ張り戻そうと必死になってくれてる」
「まあ、私はそんな大それたこと思ってないですけど。ただ維澄さんと仲良くなりたい一心なだけです」
「嘘つきなさい。あなたのさっきの講釈は、なんとかIZUMIを幸せにしたいという想いに溢れてたよ?それ聞いてね、ほんとは嬉しかったんだよ。ありがとね」
上條さんは恐さは半端ない。前回会った時は殺されると思うほどに恐かった。
でも同じくらいこの人は優しくて情が深い。この人と話せば話す程、この人の魅力に気付かされてしまう。だから私が上條さんに嫉妬するなんておこがましいにも程がある。こんな人に一生かけても追いつけるはずがない。
「なに黙ってんのよ?」
「励ますとか言ったって、結局私が落ち込まされてるんですよ」
「え?どういうことよ?」
「上條さんの魅力に敗北感を感じてるってことです」
「あら?やっと気付いたな?でも私に対抗するとか、あんたもどんだけよ?……ハハハやっぱあんた面白いね」
私は自分のおこがましさに赤面するしかなくなってしまった。
「じゃあ、私はそろそろ帰るけど、今日私と会ったことはIZUMIにちゃんと話しなよ?黙ってるとまたあの娘暴れるよ?」
「ええ、分ってますよ。私がもうそんなミスするわけないですよ」
「ハハハ、さすがIZUMIにぞっこんの檸檬ちゃん」
「”ぞっこん”っていつの言葉ですか……」
「いいんだよ、私はおばさんだからね。やっぱりJKの魅力には勝てないよね~」
「ほんと、そういうことろムカつく!!」
上條さんは、前回と同じように風のようにやってきてまた風のように去って行った。
ほんとあの人、何をしに来たんだろう?
たまたま盛岡に用があった訳じゃないよね?
やっぱりまだ維澄さんのこと心配してるんだろうな。
忙しい仕事の合間を縫ってわざわざ盛岡まで来るなんて。
でも、今日上條さんに会えたことで私の心は随分と楽になった。
最大の敵と思っていた人とまさかこんな関係になるとは思ってもみなかった……
上條さんにはほんと振り回されっぱなしだけど……
私のような小娘があれこれ考えたって仕方がないってことい気付けたのは収穫だった。
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