第92話 海の美味しいもの
1人で歩いているとフェリクスはふと港の端で漁師の人が海に何か投げ戻しているのが目に入った。
「それは何なんでしょうか?」
「これか、ゲテモノだよ、網にかかるのが誰も食べやしねぇから、捨てているのさ」
それは八本足の赤い生き物だった。それを見ていると横に小人精霊が現れた。
『あれだよ』
「すみません、それ、いらないなら貰ってもいいでしょうか」
「別に捨てるもんだし、こんなもんいるなら、勝手に取って行ってくれ」
漁師はそう言い放つと網をフェリクスに投げ、何処かに行ってしまった。勝手に持っていていいと言われたので、フェリクスは網についている生物を手に取った。その感触はヌメヌメして、第一印象はとても食べられるものとは思えなかった。
『焼くといいよ』
しかし、横の小人精霊は食べろと囁いてくる。
『これ、つけて』
小人精霊は何処から出したのか、分からないが、小瓶を出してきた。さらに七輪と網まで取り出していた。フェリクスはその助言に従い、生き物を網の上に置き、七輪には魔法で火を焚いた。いい匂いがしてきた所で小人精霊が持ってきた小瓶の中身を生き物に振りかけた。
『いい香り~』
「確かに見た目とは裏腹にいい香りだな」
良い頃合いに焼けてきた所でフェリクスはナイフで生き物を小さく切り、口に放り込んだ。ほどよい弾力と甘みが口に広がった。
「なるほど、お前が押すのもわかる」
『でしょ、でしょ』
「しかも、この生き物は、今は捨てられているみたいだし、なかなか目の付け所もいい、売れそうだな」
『やったー』
「親父に報告だな、後はこれの保存方法や調理方法があれば完璧だが、それは、商会の奴らに任せよう」
それが決まるとフェリクスはアベルと合流してさっきの兵士たちがいる建物に戻ることにした。代わりの者が来るまでフェリクスたちは動けないので、そのまま明日まで待つことになった。しかし、そこで少し問題が発生した。
兵士の詰め所の様な場所だったが、中があまりにも汚く、全く掃除をされた形跡がなかったのだ。これでは明日来る人に申し訳にないし、何なら、ここにいるフェリクスもアベルもそのままは嫌だったので掃除をする事にした。
「それにしてもよくこれだけゴミを貯めたものだ」
「俺としては、王子が掃除を自分でする事の方が意外だよ」
フェリクスは魔法で、アベルは置いてあった箒で掃除を行っていた。
「学院では自分の部屋は自分で掃除していたぞ」
「確かに、それがあったか」
何でもない会話をしながら、2人は、コツコツと掃除を進めて、夕方になる頃には見違えた様に詰め所は綺麗になっていた。
「さて、これぐらいで良いだろう」
「そうだな」
掃除が終わると、2人は明日に備えて早めに就寝するのだった。
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