第34話 テロ
歓声が鳴りやまぬ中、水の中から出たアリサはフェリクスに声をかけた。
「やられました、まさか、私の魔法陣に干渉してくるとは思わなかったです」
「魔力が高ければ、確かに、有利に戦闘を進められるかもしれませんが、その魔力も利用されると元も子もなくなるのでお気をつけ下さい」
「いい勉強になりました」
「それは良かったです」
1年の決勝が終わり、次に2年の部が始まるとした時
突然、会場に爆発音と悲鳴が広がった。
それと同時にアリサとフェリクスの周りには次々と黒装束に身をくるんだ者たちが現れた。その数は10人。
「この前の奴らの可能性があるので、気を付けてください」
不思議なことにアリサとフェリクスが襲われているのに誰もステージ上に上がって2人を助けようとしない。
「どうやら、このステージの結界を書き換えたようです」
「そんなどうやって」
「それを考えている時間はなさそうですね、あれ、使いますよ」
「いや、しかし、大勢に見られてしましますよ、私はともかく、フェリクス君は・・・」
「大丈夫ですよ、自分の命なら自分で守ります」
「・・・わかりました」
それにフェリクスにはここを早く脱出する理由があった。
「シルフ、行くぞ」
「ウンディーネ、行くわよ」
ステージの中央で背中合わせをしていた2人は同時に黒装束たちに向かっていた。2人の体からは精霊術で強化された特有の光を放ったが、一部の者にしか見えていないだろう。それを証拠に黒装束のリーダーと思わしき男が叫んだ。
「男の方も精霊使いだぞ、気をつけろ」
つまり、その男も精霊使いだと言うことだ。それが分かったフェリクスは先手必勝とばかりにこの前、覚えたばかりの風の術式を使った。神力の身体強化だけの速度より、明らかに数段速度が上がる。
「なっ」
リーダーと思わしき、男は驚きの声を上げるが相手が落ち着くまで待つほど、フェリクスはお人好しではない。フェリクスはそのまま、その男を切り捨てた。それと同時にフェリクス側の他4人の黒装束たちが倒れた。その胸にはフェリクスがこの前、懐から出し、炎の術式をかけていたナイフが刺さっていた。
「何よ、私の出番がないじゃない」
「そんなこと言う暇があったら、アリサ姫の所を加勢してきてくれ」
「あんたは加勢しないの?」
「それよりもすることがある」
フェリクスはステージの結界に触れると術式を弄り始めた。
アリサもすぐに黒装束たちを制圧することが出来た。制圧し終わる頃にはフェリクスはステージの結界を解除し終わっていた。
フェリクスはステージの結界を解除し終わったと思ったら、すぐさま観客席に移動した。そこでは爆発の混乱により、人がごった返していた。爆発の影響で腕が吹き飛んだ者、母親が倒れ泣き叫ぶ子供、倒れた恋人をぼうっと見つめる女性、他の事には目もくれず、フェリクスはその人たちを見て回った。
「お前ら、怪我人をここまで集めろ、全員助けてやる」
観客たちの声をかき消すほどの声でフェリクスは叫ぶと一番近くにいた重傷者から治療を開始した。フェリクスは靴を脱いですべての指を使い、治療術式を組んでいるがそれでもフェリクス自身全員が助かるかはわからなかった。なぜなら、爆発は大きく5つ起こっており、そのうち1つの場所にフェリクスがいるが他の4つの場所の重傷者にはフェリクスの場所まで来てもらう必要があるからだ。5つの内、一番重症そうな所に来たが、他の重傷者がここまで来られるかはわからなかったからだ。さらに言うなら、患者の数が多すぎて、フェリクスの手が足りるかはすらも分からなかった。
しかし、フェリクスはさっき言った言葉を撤回するつもりはなかった。本気で全員助けようと思っている。
そんなフェリクスをアリサは呆然と見ていた。自分に治癒魔法が使えないことでここまで無力に思う瞬間はいままでなかった。
そんなアリサに後ろから市民に紛れて1人暗殺者が迫っていた。
「アリサっ」
ウンディーネが寸前で気づき声を掛けるが、もうナイフがアリサに迫っていた。しかし、暗殺者はアリサにナイフを突き立てることが出なかった。暗殺者は電撃魔法に焼かれていた。呆然としているアリアを助けたのは全力で治療魔法をかけていたフェリクスだった。
「アリサ王女、そこに突っ立てるだけなら、いち早くこの混乱を納めて見せろ」
フェリクスは一言、アリサに叱咤激励をした。それを聞いたアリサははっとして会場から出ようとしている観客に向かって魔法を使い、声を掛けた。
「お願いです、皆さん、落ち着いてください、もう騒ぎは収まりました、けが人の皆さんを南の観客席に移動できるように道を開けて下さい」
アリサ姫の声が響き渡るとフェリクスが声を掛けた時とは雲泥の差の効果が出た。フェリクスの声を聴き移動していた患者たちにすぐさま道が開かれた。
患者たちは無事にフェリクスの所に移動できたが、後はもう運だった。アリサは尚も観客に声を掛け続け、観客が落ち着くように努めた。
10分後
「ふう、終わった」
「皆さん助かったのですか?」
「ああ、ここにいる重傷者たちはすべて峠を越えた、これで大丈夫だ」
もう一回、フェリクスは観客を見渡すとそのまま後ろに倒れこんだ。
「もう、魔力の限界だ、後は他の治療できる人に任せるよ、それまでこの人たちの事を頼むよアリサ姫」
「はい、わかりました」
それだけ言うとフェリクスはホントに疲れたのか、そのまま眠りに落ちた。
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