第113話 ボーイズ・ミート・マジシャン・ブラザーズ

 エブリスタ兄弟は、


「俺は、ライト・リズム・エブリスタ」


「俺は、リード・ビカム・エブリスタ」


『この魔法大国エウロペに、その名を轟かせる二大賢者、エブリスタ兄弟たぁ俺たちのことよ!!』


 相変わらず芝居がかった口調で、ポーズまでしっかり決めて名乗ってくれた。


 ピノアがふたりをよくクソガキと罵っていた気持ちがレンジにはようやくわかった。

 彼らに悪意がないのはわかっていたが、タイミングが悪すぎた。


「ステラとピノアはどこだ?」


 ふたりは、レンジが何を言っているのかわからない、そんな顔をしていた。

 その顔は、どうしてリバーステラからの来訪者がステラとピノアを知ってるんだ? という顔ではなかった。

 誰だそれ? という顔をしていた。


「ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルはどこだって聞いてるんだ!!」


 レンジが声を荒げた瞬間、彼の学生服が世紀末救世主のように吹き飛んでいた。

 胸には逆三角形のエムブレムがあり、彼の身体は翡翠色の甲冑を身にまとうだけでなく、その両手にはふたふりの剣が、背中には大剣があった。


「な、なんだ、その魔装具!? なんで来訪者が魔装具を持ってるんだ?」


「そっちのやつだけじゃない、こっちもだ」


 ショウゴもまた、レンジの魔装具に呼応したのか、魔装具の甲冑と両腕に小さな盾、そして合体銃剣を取り戻していた。


「レンジ、落ちついてくれ」


「落ちついてなんかいられない。

 ぼくたちは時をただ巻き戻されただけじゃない。

 ぼくはここで、今このとき、ステラとピノアに出迎えられたんだ」


 そうか、だからレンジはこんなに、とショウゴは思った。


 今のレンジは、まるで『自分がこの世界にやってきたときのようだった』。

 好戦的で破壊衝動をおさえきれなくなっているように見えた。


 ストレスだ。

 そしておそらく大気中のダークマターによる脳への何らかの干渉だ。


 自分のときは、偏差値70オーバーの、ゼロや無限大が奇数か分数かで喧嘩をするような秀才や天才ばかりが集まる、勉強についていくのがやっとの有名私立のエスカレーター校に通うことのストレスだった。

 そこから解放されたことにより、恍惚感のようなものに満たされた。

 そして、好戦的な性格になっていた。

 破壊衝動をおさえきれなくなっていた。


 彼は魔装具鍛冶レオナルドの店から火事場泥棒した直後に、今目の前にいるエブリスタ兄弟に出会い、大きな過ちを犯した。

 だが、それ以前から、城下町に足の踏み場もないほどに転がる無数の死体を見ても何も思わず、平気で踏みつけて歩くことができていた。

 それどころか、靴の汚れだけは気にしていた。神経質にもなっていた。


 だがレンジが今抱えているのはそれ以上のストレスだ。

 彼や、自分を含めた仲間たち、彼の父親、皆がしてきたことがなかったことになってしまっただけじゃない。

 今ここにいるはずのステラやピノアがいないのだ。


 レンジは自分のように過ちを犯しかねない。

 自分がなんとかするしかないと思った。


「わるいな、レンジ」


 だからショウゴはレンジのみぞおちにゼロ距離から合体銃剣を撃った。

 レンジの甲冑は高い防御力を持つが、同じ結晶化したエーテルで作られた武器ならば、そしてゼロ距離射撃ならば、意識を失わせることくらいはできると思ったからだ。


「ライトにリード、とりあえずこいつをもうしばらく魔法で眠らせておいてくれ。それから治癒魔法をかけてくれ」


「なんだかよくわからないが、わかった」


「リードは眠りの魔法をかけてくれ。俺は治癒魔法をかける」



 ショウゴはレンジを背中に背負うと、


「信じられないかもしれないが、俺たちはお前たちを知ってる。

 俺たちは、お前たちといっしょに、大賢者ブライ・アジ・ダハーカを倒し、一度この世界を救った。

 元の世界に帰ろうとしてたら、レンジがこの世界に来た日付と時間に時を巻き戻されたみたいなんだ」


 ふたりにそう説明をした。


「ブライ・アジ・ダハーカはもういない。17年前に死んでる。

 エウロペの大賢者は今は俺たちだぞ」


「ステラとかピノアとか誰のことだ?」



 そこは、ふたりが知るエウロペでもテラでもなかった。

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