第105話 13人目の救厄の聖者 ③

 ジパングのもうひとりの女王・白璧リサ(しらたま りさ)は、ツインタワーの形状をした城の、もうひとつの塔・白璧の塔の最上階で、陰陽師・雨野ミカナと共にいた。

 人をダメにするソファの上で、まるで陰と陽を表すふたつの勾玉のような形で、ぐでーんとしていた。


 ミカナはタカミの妹だ。

 だから彼女も、あくまで陰陽師は肩書きだけで、「ザ・陰陽師!」というような、いかにもな格好はしていない。

 しかし彼女には兄のような特殊な力はなく、本当にその肩書きは飾りでしかなかった。


 だが、彼女は元々おしゃれに非常に気を遣う女の子であり、手先も器用だったため、ジパングで主流の着物に、リバーステラの現代風のアレンジを加えた新しい服をいくつも作り出していた。


 もっともそれは、アマゾンや楽天でも安価で手に入るようなコスプレ用のえっちな着物から着想を得た、というよりは、デザインを丸パクリしたものでしかなかった。

 スマホの中にスクショがあったらしい。何故そんなものがあったのかは、彼女以外は誰も知らない。

 しかし、彼女はジパングたちの職人たちの力を借りて、本物の着物に使われる生地でそれを再現し、完成したものはもはやえっちなコスプレを超え、ガチすぎる新たな着物として、ジパング中に広まっていた。


 彼女が発明(正しくは再現)したもので、最もジパングの民たちに喜ばれたのは、下着であった。

 ブラジャーとパンティである。

 それまでノーブラ・ノーパンで生活していたジパングの女性たちは、歓喜した。


 男たちもまた、フンドシからトランクスやボクサーパンツへと移行した。


 シューズやローファー、ヒールといった靴や、キャミソールや胸パッド、矯正下着、ストッキングやニーハイ、ルーズソックス、そしてビキニなどの水着も数々生み出した。

 さらには様々なメイク道具などを生み出してはその度に喜ばれた。


 ジパングは、陰陽道こそ船を空に飛ばすほどに発展していたものの、衣服に関してはリバーステラの明治か大正のレベルで止まっていた。


 ミカナは、ジパングに服飾革命とでもいうべきものをもたらし、まさにそれは文明開化そのものであった。


 彼女は今やジパングのファッションリーダーであり、時代の先駆者として、ふたりの女王が公けの場に出る際のスタイリストも務めていた。


 女王だけではなく摂政や関白の許可を得て、パリコレならぬジパコレを毎年開催し、今年彼女がお披露目したゴスロリ着物は、職人たちが悲鳴をあげるほどの予約が殺到した。


 それよりイケると思っていた、「セーラースク水」と「マイクロビキニっていうかむしろナノビキニ」が思ったよりヒットしなかったのは、ミカナが基本あざとい女の子であり、男子ウケをついつい狙い過ぎてしまうことからくる失敗であった。

 完全受注生産を予約したのは、彼女持ちや妻帯者の男性ばかりであったという。


 さすがのミカナも、ライシア大陸のほぼ正反対にある魔法大国エウロペで、リバーステラからの転移者を導く巫女の正装として、セーラースク水が採用されていることは知らなかった。

 それだけでなく、ニーハイにランドセルにリコーダーというおそろしいコンボまで採用されており、それが8888人目の転移者であるアラフォー男性(捕まえたスライムで遊んでいたら顔に張り付かれて窒息死した人)の性癖から来る発案を、国王が真に受け正式採用したと知ったら、彼女はきっと絶句するだろう。


 男子ウケを狙い過ぎる、行き過ぎた彼女のあざとさは、ロリコンのキモオタおじさんの性癖ともはや同じレベルに達しているという、おそるべき事実を彼女は知ることになるからである。


 今まさに、飛空艇でジパングに向かっている救厄の聖者たちの中には、ピノア・カーバンクルという少女がその格好をしており、間もなくジパングに到着しようとしていた。

 それだけではなく、大和ショウゴという異世界からの来訪者の鞄の中には、「すてら」とピノアが愛を込めて汚い字で書いた、余計あざとさが増したものが入っていたわけだが。



 ちなみに現在彼女は、漫画や映画にしか出てこないようなものも、この世界ならいくらでも産み出せると考え、バック・トゥ・ザ・フューチャーに出てきた靴ヒモが勝手に締まる靴や、宙を浮かぶスケボーなどを開発中だ。



 公けの場に姿を現すとき、ふたりの女王とミカナは、美人すぎるジパングの三種の神器と呼ばれるほどであった。


 だが、プライベートのリサとミカナは、マヨリよりもひどく、人をダメにするソファに全裸(フル・フロンタル)で身を預ける、至高のダメ人間と究極のダメ人間であった。



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