第22話 幕間 ~阿倍野咲夜は遺産を継ぎたい~
都内。
ここは代官山のオシャレ喫茶店――いわゆる魔界だ。
喫茶店内は昼下がりの時刻。
当然、オシャレ女子達が店内にはひしめいている訳だ。
彼女たちは「えーマジウケるー」と言いながら一切の笑みを作らない。
更に言えば、「マジすごーい」と言いながら一切の驚きの表情も作らない。
マジうけると言うのであれば、そこは爆笑とまでは言わずとも、せめて笑わないといけないだろう。
と、いうか、芸人のライブの客が全員オシャレガールだったと仮定し、「えーマジうけるー」とか適当に言われながら客席で全員が無表情だったら……芸人さんも泣いてしまうだろう。
――そう、ここを魔界と言わずとしてどう形容するのだろうか。
と、そんな喫茶店の片隅に――そんな魔界にあってなお――異質な存在があった。
見た目的には決して異質ではない。
というか、その二人は恐ろしいほどの美人だ。しかも服装もオシャレで――オシャレ女子的なレベルとランクで言えば最上位クラスだ。
その点ではこれほど代官山のオシャレカフェに似合う連中もいないだろう。
が、しかし彼女たちには秘密があった。
――そうなのだ……彼女たちは巫女系の退魔一族の従妹同士なのだ。
「お宅様の妹の突然の覚醒……これは想定外でしたわね」
茶髪の縦ロール――阿倍野結衣。
つい先日、阿倍野輝夜に絡んでいってコーヒーを噴き出していたキャバ嬢巻きの女が切り出した。
「ええ、そうですね結衣さん。これではやむを得ません……か」
肩までの髪で、髪色は控えめな茶髪。
シックな服装に身を固めた20代半ばの女性は溜息をついた。
「しかし実の妹ですが……? 咲夜さん……本当によろしくて?」
「輝夜ちゃんはね……確かに私の妹よ」
「今から私たちが行う密約は……生贄選定の儀におけるギリギリグレーゾーンの半ば禁じ手を行うという密約ですってよ? 実の妹をハメ殺すような……その覚悟が本当におありで?」
そこで阿倍野咲夜は懐からメンソール系統のタバコを取り出した。
「身も蓋もない言い方をすると、ウチの家族は神社業としては破綻していて、不動産収入をメインに食っている訳なのね」
「そういえば神奈川の地方都市の駅前に幾つかそれなりの土地をお持ちだったとか」
「そう。上物の建物……ビルの所有者に土地を貸すだけのノーリスク・ノー労働・面倒な事は全て不動産屋さんにお任せの……マジでサルにでもできるシンプルなお仕事よ。いや、これを仕事と言っても良いかどうかは非常に疑問だけれどね」
「なるほどですの。それで?」
「土地を右から左に貸し出すだけで年間で何千万円の収入よ。笑いが止まらないわ。ご先祖様ありがとうというものね。本当に何もしてないのに……何千万円が勝手に入ってくるのよ? 努力だのという言葉が馬鹿らしく思えてくるわね」
「私の家も神社業は儲からなくて……状況は似たようなものですけれども、まあ――私達レベルの土地持ちになってくると生まれた瞬間に勝負決まってますわよね」
そこで阿倍野咲夜はタバコに口をつけ、憂鬱気に煙を吐き出した。
「まあ、昔々の大昔……土地の所有権利その他諸々の権利の代償に退魔師みたいなことやらされてるんだけれどね。そして相続関係の一般の法律は私達には非適用……基本的に次代の後継者の総取りシステムとなっちゃっているわ。勿論、例えば退魔の仕事を辞退したり……本家に逆らうと土地家屋没収なのは知ってのとおりね」
「……結論としてはどういうことでございましょうか?」
「遺産争いで揉めたくないのよ。しかも誰かは今回の生贄選定の儀で死ななきゃいけない訳でしょ? 更に言えば、今回の件で元々天才気味だった輝夜ちゃんの才能が爆発しちゃったみたいだし……このままいけば将来的な家督争いでは私は不利ね。正直困っているのよ」
つまり……と阿倍野咲夜はニコリと笑った。
「――輝夜ちゃんは私にとって、とっても邪魔なのよね」
「しかし実の妹ですわよ? そこまで割り切れるものかしら?」
「そりゃあ簡単に割り切れるわよ」
「と、おっしゃいますと?」
「だって私――お金が大好きだもの。これは数百万や数千万円の話じゃないわ。流石にその程度じゃあ私は妹を取るわ。でも、数十億円単位の土地の相続問題なのよ。常々、邪魔だ邪魔だと思っていたところに――良い機会だったわ」
その言葉を聞いて、阿倍野結衣もまたニコリと笑ったのだった。
「全く……清々しいクズですわね。でも、だからこそ下手に義理堅いような輩よりは信用もできますわね」
「クズというのは心外ね」
「実の妹よりも金を取るという事でしょうに?」
「私は他のみんなよりも――ほんの少し素直なだけよ」
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