30嫁 メイド長 ヒンメル=ユニヴェール 後世の評価
『
徹底解剖! 歴史のブランクページ 『ヒンメルの空白』の謎に挑む!
理想帝時代の後宮事情を紐解く第一級資料として一番に挙げられるのは、ヒンメル=ユニヴェールによる『後宮管理帳』(※原版はタイトルなし。『ヒンメルノート』、『メイドマスターテキスト』とも)であることは読者諸君にも異論のないところであろう。
後宮というテーマ自体が衆目の興味を集めるのか、歴史家の間では『食い扶持に困ったら後宮管理帳モノを出せ』と言われるくらいに本書は様々な者によって研究され、数多の解説書が巷に流布している。
どのタイプの解説書であれ、初めて後宮管理帳に触れた読者はある種のゴシップ誌的なおもしろさを感じると共に、ヒンメルの緻密に構築した毎日のスケジュールと、膨大な数を誇る理想帝の嫁たちへの鋭い観察眼に驚くはずだ。
しかし、そんな後宮管理帳にも一つの謎が残されている。
三か月~六か月の間隔でときおり現れるスケジュールの余白――通称『ヒンメルの空白』だ。
空白となっているのは、一回につき大体3時間~4時間程度であるが、スケジュールを分単位で埋めるヒンメルだけに、この余白をただの余白だと考える研究者は少なく、長年、この空白の時間に彼女が何をしていたかが論争の種になってきた。
有名な説としては、
① ミスト、メリヴェーヌらによる、仕事熱心なヒンメルが自らに許した僅かな自由時間だとする『休日説』
② オグバーン アレガノらが主張する、当該時間に国家機密に関わる仕事をしていたため、情報隠匿のために敢えて記さなかったのだとする、『機密説』
などが挙げられるが、どれも決定打に欠け、長らく論争は棚上げ状態になってきた。
しかし、なんと今回、本誌は独自取材により、本論争に決着をつけるかもしれない新資料を入手した。
グリナリエ市旧家より発見されたとあるメモの切れ端。そこには、衝撃の内容が記されていた!
『ご主人さまがたまにヒンメルとお外でデートするのが超うらやましいー。私も行きたいー』
愚痴とも願望ともといえる他愛のない内容であるが、重要なのはこれを記した人物である。
本メモは件の旧家の蔵に保管されていた衣装ダンスの中から出てきたメイド服のポケットにくしゃくしゃに丸められた状態で入っていた。そのメイド服の持ち主は、なんとテ―ラだというのである。
テ―ラの名前はヒンメルほどは人口に膾炙してはいないが、彼女もまた、理想帝の傍近くに仕えていたメイドであり、資料の発掘された旧家もテ―ラの遠縁であることから、かなり信頼性の高い資料と考えられる。
しかし、本資料をもって、すわ、『理想帝とヒンメルの身分を超えた禁断の愛か!』などと考えるのは早計であろう。
今でも重要な案件というものは、お偉方の非公式の宴席や遊びの場でひっそりと話し合われるものであり、理想帝もまた、ヒンメルと食事を共にして日頃の労をねぎらうがてら、後宮のあれこれについて相談していたというのが本当の所であろう。
つまり、①と②の主要な説、そのどちらにも一定の妥当性があったのであり、本誌は二つの折衷案的な ③『理想帝との打ち合わせ説』を提唱したい。
しかし、本資料をもっても、未だに理想帝とヒンメルがどこで会合をもっていたかは突き止めるに至っていない。追加調査の結果如何においては、案外『デート』が本来の意味での逢瀬という可能性もまだ残されており、そういった意味でも興味がつきないテーマである。
本誌はこの『ヒンメルの空白』問題を、今後も徹底的に取材していくつもりであるので、今後の続報を楽しみにして欲しい。
』
(歴史龍昇 増刊号)
『
これはバーのママあるあるだと思うのだけれど、よく酔っぱらったおじさま方が盛り上がる話題に、『理想帝の一番愛した嫁は誰か』っていうテーマがあるのよ。
まあ、男同士が猥談で性癖を晒し合って親密さを共有したり、お店の子にアピールするのに都合のいいテーマなのでしょうけど、ワンパターンよね。
まあ、それはいいのだけれど、ワタシが笑っちゃうのはオトコたちの議論の浅さよね。
『理想帝の間に一番子供を作ったのは誰それだから、あの子が一番だ』
とか。
『一番おっぱいの大きい子は誰だ』
とか。
即物的な話ばっかりで。
正直言って浅いな、と思うわね。
理想帝くらいのオトコになれば、もう美人なんて見飽きてるのよ。
性的な魅力だけで愛を語るなんて、自分のオトコとしての器の小ささを晒しているのね。
こんなことを言うと、そんなに偉そうにするなら、じゃあオマエは誰が理想帝の一番愛した女だと思うんだ?
って突っ込まれちゃいそうね。
ワタシの答えはね。
『嫁たちの中に、理想帝の一番愛した女はいない』よ。
ヒンメルちゃんっているでしょう。
後宮のメイド長をやっていた。
多分、あの子じゃないかしら。
理想帝の一番愛した女は。
なぜって?
だって、後宮の管理者ってある意味、世界の支配者だもの。
悪意をもって仕事をすれば、理想帝以外の男を引き入れたり、理想帝の寵愛を歪めたり、やりたい放題できちゃうのよ。
そういう、一番大切なところを任せられるのは、本当の信頼関係がないとできないことでしょ?
彼女すごいと思うわ。
ワタシもね。夜のお仕事をしているからわかるのよ。
1000人を超える女の子の管理をする大変さ。尋常じゃないわ。
1000人を兵士を管理するのと訳が違うのよ。
オンナはオトコみたいに単純じゃないから、千人いれば千通りの接し方を工夫しないとイケナイの。
あら。飲み会でオンナノコ受けのいい答えを求めていたオトコたちにはがっかりな答えだったかしら?
でも、案外真実ってそんなものじゃないかと思うのよ。
まあワタシが永遠の『外の女』だから、嫁じゃない彼女を贔屓しちゃうだけなのかもしれないのだけれどね(笑) 』
(週刊マキシマムギガント 連載コラム マダム シャムーラ 秘密の部屋)
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