第37話 『偉い人』の身勝手と二人の変な髪の女性
「お疲れ、餓鬼」
詰め所に入ると、かなめから冷ややかな視線と言葉がランに浴びせられる。ランは無視してそのまま席についた。部屋には隊長室から戻った誠に書類整理中のカウラ、ニヤつきながらパソコンの画面をのぞいているかなめの他に、なぜか着替えを終えて帰り支度の島田の姿があった。
「そうだ、忘れてた。西園寺……例の件、隊長から許可が出たぞ」
ランの言葉に、それまで浮ついていたかなめの視線が生気を帯びる。
「まじかよ……アメリアにも連絡するか?」
「まあ今メールを送ったから……早いねえ。もー連絡が来てるぜ。『島田の馬鹿』が『支配』している『男子寮』で待つだとよ」
そう言ってランは満面笑みのかなめを見つめた。
「そういうわけで」
島田が誠の肩に手を伸ばす。
「なんですか?僕がなにかしましたか?」
誠は今一つ状況が飲み込めずにいた。
「なにがじゃないんだよ!お前さんの力が必要なんだから」
黄昏ていた誠を技術部部長代理兼整備班長である茶髪のあんちゃん、島田正人が引っ張って廊下に連れ出す。
誠は割り算が出来ない島田の怪力に慌てふためきながら廊下に引きずり出された。
ジタバタとするばかりの誠をかなめ達は生暖かい視線で見送っている。
「いいから……早く着替えて着替えて。ようやく隊長の許可も下りたんだから」
そこには二人の私服の女子が立っていた。一人は水色の髪、もう一人はピンクの髪。どちらも遺伝的にあり得ない髪の色だが、どう見てもかつらには見えなかった。
「正人ー。誠君に私のこと紹介してくれないの?」
ピンクの髪の女性としては普通のサイズの可愛らしい女性がそう言って島田の馬鹿に訴えた。その隣では水色のショートカットの女性士官が迷惑そうな視線を他の全員に投げている。
「そうだった!神前!聞け!大事なことだ!」
そう言うと島田は『無理やり』誠を二人の女性の前に『土下座』させた。
ピンクの女の娘は純真な笑みでそんな誠に笑顔を向ける。水色の髪の女性の顔には『誠への同情』と言うものが浮かんでいることが、『理系脳』の誠にもわかった。
「彼女こそ!サラ・ラビロフ少尉!理想的な俺の彼女!」
島田はそのまま誠の頭を自慢の怪力で『力任せ』に地面に押さえつけた。
「島田君!神前君を殺す気!」
廊下に顔面をぶつけてうなっていた誠に、どうやら『特殊な部隊』では数少ない、『常識人』らしい水色の髪の女性が、心配そうな叫び声をあげた。
誠はこの『悪意のないいじめ行為』に、ひたすら最終魔法『もんじゃ焼き製造』の詠唱を始めていた。
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