mc2020.11.17 雨天、タリーズ夫妻来店

 本日は午後から雨天なり。

 晴れ渡っていた午前中とは打って変わり、十三時頃から強く降り注いだ雨が地面を掘り返し、あたりは土の匂いに満ちていた。

 そんな雨模様の日に、新しいお客様が来てくれた。

 久しぶりの同胞(人間)のタリーズさんとベティさんの老夫婦だ。


 彼らは朝早くから林道をピクニックしていたらしいが、昼過ぎから雨に当たってしまい、遠くで煙(俺の昼飯に焼いたキングベアの肉から昇った煙)を見つけて、雨宿りがてら来店してくれたようだ。

 雨に濡れて寒そうにしていたので乾いたタオルに温かいホットコーヒー、クッキーを提供して一息を入れて貰った。


 落ち着いてから話を聞くと、どうやら二人は都市部で『魔法道具のお店』を開いていた往年の錬金術師らしい。

 今はすっかり引退して暇を持て余し、以前から興味があった魔界近辺まで足を運んでみたとか。


 一応二人は雨宿りのお礼に、ウチの店で『ルリノキ』という魔力宿る小さな樹木を買ってくれた。

 タリーズ爺さんはお金を払いながら「これを黒魔術に使うのさ」と不敵に笑ったが、俺は知っている。

 ルリノキはお風呂に浮かべると体を芯から温めて疲労回復効能のある入浴素材だということを。

 お爺ちゃんとお婆ちゃんだから、今日の夜はゆっくりお風呂にでも浸かりたいのでしょう。


 そのあと、一時間ほど雑談しているうちに雨も弱まり、二人が帰るというので安い傘を渡した。二本渡すつもりだったけど一本でいいと断られ、二人は一つの傘で仲良く帰って行った。


 彼らの後ろ姿を見て、なんだかいいなーとほっこりした。

 うーん、いつか俺にもあんな一生を添い遂げる伴侶が見つかるのかねぇ。

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