僕は振り返る
山岡咲美
僕は振り返る(前編)
バスは何時もの様に朝の街を静かに進む、冬の凍りつく寒さの中でもガンガンに暖房の効いたバスの車内は暖かく、僕は流れ行く何時もの通学路の光景を冷たい窓にオデコを当てながら見ていた。
「あれ、何だったんだろう?」
その日の僕は何かが引っかかっていた、でもその何かを思いだせ無いでいた。
***
「ん?……今何時だ?」
薄明かりがカーテンの隙間から見える、僕は日常のリズムを作るためカーテンを閉めないで寝るのだがいつの間にかカーテンは閉められていて鳴る筈のスマホの目覚ましが鳴っていなかったのだ。
「おかしいな……何時も3回は鳴るようにして休みの日にもさわらないのに……」
ウソ!!
「電源点かない?フリーズ?反応しない?スマホ壊れた?買って貰ったばかりのやつだぞ、ヤバ、どうしよう?」
僕は絶望感に包まれた……。
「あ、母さん、スマホがさ、壊れたみたいなんだけど時間ある時に………」
炊飯器の前で母が首をかしげている。
「ごめんなさい
「炊飯器も?」
雷でも落ちたのかな?
「母さん昨日雷鳴ってたっけ?」
「ううん、鳴ってないわよ」
じゃあ、なんでだろ?
「まあいいよ、パン焼くから、それよりスマホ……」
「そうなのパンも切らせてるし……お弁当、ご飯無いと駄目でしょ?」
「あっ……そうでした」
母は鍋に炊飯器で浸かっていた米を入れ、炊き始める、本来ウチでは鍋でご飯を炊く時は水に10分くらい漬け込み弱火のままゆっくり炊くのだが今日は充分浸かっていたので母は漬け込む時間をはしょって炊きあげるらしい。
「そういえば昔家庭科の授業でウチとやり方が違うって思ったの覚えてるよ」
「始めチョロチョロなかパッパってやつね、ウチはずっとチョロチョロだもんね」
「母さんのご飯は放任主義で炊きあげるから……」
「何言ってんの?お母さんのお母さんもそうだったんだから伝統技法よ♪」
母は久しぶりだった為か鍋の前に陣取りガラス蓋を除き込む、今日は放任しないらしい。
「バス、一つ遅らすかなあ?」
僕は野球部の朝練があったので朝早くに家を出ていたがダイニングの掛け時計を見るとギリギリと行った所だった。
「そうだ、母さんスマホ修理出しといて、買って間もないから故障なら交換して貰えるかも、雷なら駄目なのかな?」
「うん解った、駄目ならまた新しいの見に行きましょ♪」
母は息子のスマホが壊れたと言うのにまるでデートの約束みたいにそう言った。
***
何か朝からついて無かったな……
「まっいいか、結局バスには間に合ったんだし」
僕は母が「ゆっくり食べなさい」って言葉も無視して朝ごはんの4つ目の目玉焼きとソーセージ、ご飯と味噌汁を掻き込んで今このバスの中にいる。
そしてバスは停留所に止まった。
「相変わらず真っ直ぐな道だな、以外とこう言う所で事故って起こるんだよな」
停留所の名前は杉の小坂、真っ直ぐな道がほんの少しだけの下っている場所だ。
***
『おはようございます[ワイドしよるん?]の時間です、今日も寒いですね~
『本当ですね、こんな日は地面が氷ますからくれぐれもお気をつけください』
『確か朝日さんのお父さんはトラックドライバーでしたよね』
『ええそうなんですよ
『そうですね、特に氷が溶け始める日の昇った後が危ないっていいますもんね』
『はい、みなさんもお出掛けの際はご注意下さい♪』
番組は朝の注意事項を会話のなかに含ませながらも
『ではまずは[今日のめにゅ~]です』
『はい下野さん、今日は地元活性化を目指す商店街とのコラボ企画と特集コーナーではがんばる地元の球児に迫ります』
その時秋子の後ろのテレビに速報のテロップが流れ始める、テレビの中で少しアナウンサーの目線が泳ぐがコーナーに続いていく、秋子は球児との言葉が一瞬気になったが、今日は少し時間が無くテロップには気づかなかった。
『今日は商店街の活性化にとりくむ
朝早くの商店街で少しテレビに出るのを恥ずかしがりながらも女性リポーターの横で店主の近衛文明がうなずく。
『もともとは八百屋さんをされていたとの事ですがフルーツパーラーを開いて話題に、店名のMIKIは娘さんのお名前からだとか』
『ええ、娘に良いか?って聞いたら軽くOKって言ってく……
近衛文明の言葉を遮る様に突然映像が切り替わり質素な地方局のニュースブースが写し出された。
『ニュース速報です、今日早朝、路線バスで事故が有りました、バス停に停車ていた市営バスにトラックが追突、多数の死傷者が出た模様です』
笹木秋子は瞬間目を画面に向ける、事故のニュースは看護師の秋子に緊急の呼び出しが来る可能性があるからだ。
『こちら市立病院前です、死亡者の中に多数の学生が含まれると判明しました、死亡が確認去れたのは、
「……優弥?」
笹木優弥って名前が出てる、字も同じだ、同性同名の別人?今死亡が確認されたって言った?何?バスの事故?何なの?トラック?何コレ?市立病院?ウチの???
「スマホ、スマホに電話!」
ああ、駄目駄目、スマホ壊れてて目の前のテーブルに……。
リリリリリリン♪リリリリリリン♪
秋子のスマホがけたたましく鳴る。
「落ち着いて、緊急呼び出しかも?」
秋子の心は母の想いと看護師の責任との間で揺れ動いていた。
「おはようございます、笹木優弥さんのお母様ですか?私、南高校で優弥さんの担任をしております
母は無言で先生の言葉を聞き続けたあと、大声で泣き崩れた。
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