第44話ヱン様と魔獣達とエリアス達(ヴィック視点)

「もうあちらは大丈夫なのですね」


「ああ、昨日寝る前にさっと確認してきたが、奴らの気配は全く感じん」


「ヱン様、ではあちらに人々を移動させることはできないのでしょうか」


 私達が城に戻って来てから2日が過ぎようとしていた。アポロ殿とウルバー殿のおかげで、さらに騎士達の動きが良くなり、オーク達がここへ到着するまでの間の準備が、思っていたよりも早く進めたため、こうして話をする時間もとれる。

 

 またヱン様が魔獣達を従えてくれているおかげで、こちらの戦闘能力はかなり上がって。もちろん最初にあの魔獣達の光景を見たときは驚いた。城の庭殆どすべてに魔獣達が集まっていたのだから。

 しかし聞いてみればヱン様が彼らに手を貸すようにと言い、それに彼らは手を貸すと、すぐに決まったと。静かに庭で待機している魔獣達を見て、アレがいつも冒険者や騎士達とやり合っている魔獣なのか?と思ってしまった。


 魔獣達は本当に大人しかった。城の敷地内にある物を破壊することはなく、城の敷地に入れない者達も城の周りで静かに過ごしている。まぁ、庭の植物は食べられてしまっているが、それは彼らの食事だから仕方ない。

 また食事に関しては、時々ヱン様と数体のワイバーン達が、オーク達の群れとは反対の方の森へ行き、オーク達に加担しそうな魔獣達を捕まえて来て、自分達の食事を用意している。


 魔獣達は今後の対応についても、ヱン様に指導を受けていた。対応のためあちこちに動いていた私。庭に出た時に魔獣達が集まりヱン様と話をしていた。何を話しているのか聞くと、オーク達が攻めてきたら、どう動けが良いかなど伝授していたと。そして皆がヱン様の考えに賛同していると。


 そんな中、他にも驚いたことが。まぁ、驚くことばかり起きているのだが。庭に出てエリアス達が居る部屋の方を通りがかり、エリアス達が泊っている部屋を見上げると、必ずと言っていいほど、そこには魔獣達が数体いた。それも見るたびに魔獣の種類が変わっている。同じ種類でも違う個体かもしれないが。


 たまに休憩のために部屋に行っている時もそうだった。エリアス達が動揺していないか、怖がっていないか、自分達の休憩だけではなく、それを確認するための休憩でもあるのだが。この時も魔獣が窓の所にきて、エリアス達と何かを話し、そして帰って行く。何を話しているのか聞くと、


「えと、まじゅうさんのすきなたべものとか」


「いつもどんな事して遊んでるとか」


「冒険者さんとの鬼ごっこ面白いとか」


「「「いろいろ!!」」」


 そう答えが帰って来た。シェーラにも話を聞くと、頻繁に魔獣達がこうしてエリアス達と話に来るのだと。その中にはあのオーク達を倒したら、森に帰る前にエリアス達と友だちになり遊びたいと言ってくる魔獣達もいるのだとか。


 それは飛べる魔獣だけではなかった。飛べない魔獣達は飛べる魔獣達に頼み、伝言ゲームのように、エリアス達と話をしていると。冒険者ギルドで上位の魔獣に認定されているキラーホースなど、エリアス達背中に乗せて遊ばせてくれると約束してきたらしい。それを聞いたワイバーン達もエリアス達を背中に乗せて飛ぶ約束をしたとか。


「私もお止めしようとしたのですが、ヱン様が良いとおっしゃったと。それに私では時々エリアス様方が何をお話なさっているのか分からないことがあるのです」


 子供達だけの世界という事か。私も時々エリアス達の話を理解できないことがあるからな。城に来る前も、おやつの時間が近づき、おやつの話をしていたと思ったら、急に立ち上がり庭に遊びに行くと。何で庭に行くんだと聞けば、「今お外で食べようとみんなで話していたの聞いてたでしょ」と、答えが帰って来た。エリアス達の会話で、庭という言葉も、外で食べるという会話も、1回も出てきていなかったのだが。今日のおやつは何かなと話していただけなのにだ。


 こういったように、私達には分からない会話を繰り広げることがあるのだ。シェーラが分からないことがあっても不思議ではない。

 まったく勝手に約束してしまうエリアス達にも、魔獣達に約束を良いと言ったヱン様にまいってしまう。しかし約束してしまったものは仕方ない。


「言っておくが、我が守りたいのはエリアスとムウだけだ。まぁ、家族もエリアスは居なくなれば悲しむから助けるが、お前達を助ける気はない。今回はここで奴らを止めなければどうにもならない事態になりうるからの、だからここで食い止めようとしているだけだ」


「それを理解しているうえでの話です」


 ヱン様と陛下は今、私達が城へ来たときの魔法を使ったり、別のルートから人々を逃がす方法はないかと話をしている。


「我の力を使わなければ別にお前達の民が逃げるのはかまわん。が、我等は奴らを止めるために今ここにいるのだ。民たちに何かあっても我らの知るところではない」


 因みにと続けるヱン様。


「グロリアにもエリアス達を家に帰せないか聞かれたが、エリアスとムウを逃がすのは最後のとき、この城が落ちる前だ。危険だがすれすれまでここに居てもらわないといけない。その理由は先程グロリアには話した」


 グロリアを見る我々一同。グロリアはとても厳しい顔をしていた。

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