”無手”決勝~竜頭蛇尾~

「「「うおおおおおおおおおおお!!???」」」




 俺とポンチャイの試合から熱気が、熱狂が、歓声が鳴りやまない会場が待ちきれない様子だった。




「「「タイチ! タイチ! タイチ!」」」




「呼ばれているな、タイチよ。お前の名前は、明日には全世界に轟くだろうな」


「”一番弟子”として、嬉しい限りヨ」


「ヨシコさんは、お強いです! ”無手”で戦うと、私の仙力シィェンリーが無くなるまで!! でも捉えられないんです!!!」


「タイチ師父シーフーは、”影”すらも捉えました。それこそ、まだ見ぬ【武道】で捉えるのでしょうね!」


 仲間達も口々に決勝での俺の活躍を期待している。






「悪いが、決勝は。…………になるぞ」






 ーーーーーー






「完敗でしたね~。ご自慢の”影”を真っ向から破られるとは~」


「ヨシコか。言い訳も弁解もしない。タイチが、……タイチが、脆弱なわれよりも強者だった。ただ、それだけ。”武器”でも、”仙術シィェンシュ”でもない”無手”では、それが全てだ。自身の身体能力の強さが全てだ」


 敗れたポンチャイが、決勝でのタイチの相手になるヨシコに話しかけられていた。



「それは白虎パイフー様の”適性”の少ない、わたくしへのでして~~?」


「そういう訳では無い。だが、タイチ様に。【消力シァォリー】は触れねば効果が無い。遅効性の【消力】では、触れた瞬間に打ちのめされるか、投げ飛ばされるか。それ以外の未知の【武道】の逆襲を喰らうことになりかねん」


「密着する距離。フェイ・ラン殿に【寸勁ツンジン】で殴られる距離ですね。わたくしが何度、挑んでも負ける要因でして~」


「フェイ・ランの【寸勁】は進歩していた。タイチの【武道】が、その一端だろう。フェイ・ラン弟子に敵わぬわれらでは、タイチに勝てる道理が無いのだ」


 一種の仲間意識なのだろう。

 ポンチャイはヨシコに対し、注意と警戒、タイチにのだと諭す。




「攻防一体の、わたくしの戦法では敗れるでしょう」


 武芸者としての矜持プライドと実力差を感じ取る力量を天秤に懸けて、素直に敗北を受け入れ___




「ですが! それは、わたくしなら、でして~~!」


 ___る程、ヨシノ・ヨシコは可憐で、やわな、女性では無いのだ!






 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






 司会者に入場を促される前に、タイチとヨシコが舞台で佇んでいた。






 __『”極真武ジーヂェンウー”!』





 __『”無手”・決勝!!』






 __『黄龍フゥァンロンの部!!! それでは____”開始カイシー”!!!』






 ーーーーーー






「「「わあああああああああああああああああ!!!」」」




 会場が沸き立つが出場者達、武芸に秀でた者達からは奇妙な光景が映っていた。




「「「わあああああああああああああああああ!!!」」」




 適切に防御をしているものの、触れられるだけで危険なヨシコの【消力】を込められた攻撃を、わざと数回、タイチが喰らってみたように見えたからだ。




「「「わあああああああああああああああああ!!!」」」




 存分に触り、効果が充分であると判断したヨシコが一転、”攻め”を捨てた”回避”。

 殴らせも、掴ませも、完全な”回避”を選んだと判断したタイチが、ようやく攻める動く!!




 __【空手】



 __【カポエイラ】



 __【中国拳法】



 __【太極拳】



 __【蛇形拳】






 予選と本選でタイチが使って見せた、タイチから吸収したフェイ・ランなどが見せた、相手を掴む必要のある【柔道】を除いた全ての【武道】を使っていた。




「わたくしで! わたくしで、おさらいをさせるなど!! なんたる侮辱でしてーー!!!」




 女性であっても武芸者であるヨシコが、自分をサンドバック動く的に見立てられて怒っていた。

 この距離間ではコレ、躱されたらコレ、【武道】それぞれの”動き”を見せるのにヨシコは打ってつけの相手であった。






 ”ドスン”!!!!!






 ヨシコの怒りの問いかけに答えるように、天高く上げられたタイチの脚が大地を踏みしめる音が鳴り響く!!!






 ーーーーーー






「侮辱などしていない。おさらいを、させたかったのは事実だが。全て本気で、倒すつもりで【武道】は使った。俺の【武道】では、と、信じていたからな」






 タイチが最初に、【消力】を受けた理由は”二つ”。




 __”一つ”は、ヨシコに”攻め”を考えずに”回避”に徹しさせるため。


 ニーナが模倣した【消力】から本物オリジナルの効力を推察し、観客などに【武道】の復習させる”型”を見せるのに充分だと考えたのだ。






「それに”無手”で勝つためには、____”回避”に全力になってもらう必要が有ったからな!!!」






 __”二つ”は当然____勝利の為にだ!!!!!






 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






「「「わあああ……あぁ……____!???」」」


 武芸に精通していない観客ですら、タイチ達の試合の異変に気付いていた。

 今まで様々な【武道】を繰り返し見せていたタイチからの攻撃が一切、無くなったのだ。




「ほ~、ほほ~~……。ぐぬぬ、でして~」


 自身の【動作の最適化動き】が【太極拳】に似ていることをタイチから見せられ、ヨシコが焦っていた。

 今まで、気付いたら相手が【消力】で動けなくなる、負ける、自分が正確に、何処に居て、どのように動いているのか分からなかった。






 タイチが使っている【武道】は____【相撲】。






 今は【太極拳】も【相撲】もヨシコには、ある程度の理解が出来る。

 タイチの【相撲】から発せられる”圧”で、自身が自動的に後退させられていることに気付いたのだ。




「お、おい」「このままだと……」「マジか」




 今、ヨシコは触られることさえも警戒し、”回避”に全ての【仙術シィェンシュ】、仙力シィェンリーを注いでいる。

 それゆえに、タイチから発せられる”圧”に、過敏になった”回避”が、後退を余儀なくされているのだ。




 厳格に、【相撲】や【ボクシング】のように厳格に、試合場の広さが明確な【武道】には、する”技術”が有る。

 ”フェイント”などという技術は、単に相手を撹乱かくらんするだけでなく、”回避”するすることも可能だ。






 そして、真に素晴らしい”フェイント”は反応しなければ____そのまま攻撃として使えるモノ!!!






 もし、ヨシコが【武道】を、【太極拳】を極めていたとしても、【消力】がタイチを削りきるまで時間が掛かる以上、

 白虎の”適性”に乏しく、”無手”においてタイチと真っ向から打ち合えない時点で____結果は変わらないのだ!!




「く、悔しいの、でして~~~~」


 自身に適した【太極拳】を習得していないヨシコが、【動作の最適化仙術】を切ることの出来ないヨシコが、悔しさに歯ぎしりしながらへと降り立っていた。






 タイチの頭上で輝く”球体”が闇に飲まれたように、完全に光を失っていた。


「全快、とまで往かないな。やはり、オリジナルは威力が違う。【神技シェンジー】、2回近くまで削られている。ちょっと、おさらいが長かったかもな」






 __『……はっ!!? じ、場外! 勝者! コレエダ・タイチ!』






 今までの派手で、盛り上がる内容ではない結果に、会場は水を打ったように静まり返っていた。

 途中は近年でも、長い歴史の中でも、稀に見る盛り上がりを見せていた”無手”の試合の全行程が、静かに終わりを告げる。




 本年度”無手”王者は____コレエダ・タイチ!!!






 長く、”竜頭蛇尾”な内容だったと語り継がれる”無手”の大会が終わったのだ。






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