白石・佐一という男

 雪深い村の八人家族の長男に生まれた俺は、猟師マタギであった父と違い、猟銃より剣術やっとうの方に興味を持ち育った。

 銃も常人よりも才能が有ったが、『世が世なら刀一本だけで城を持てる程』だと、師を仰いだ師匠達から頂いた御言葉だ。



 そう、、ね。

 時代は銃を中心とした軍隊、【武】は近代的な重火器が全てだった。

 そのため、一介の兵卒として従軍することになったのだ。



 それにもので、俺を越える人外としか思えない軍曹上司の下で、激戦を経験することになる。


『敵は、自分が出来ることは、出来て当たり前だと思え』


 実際、敵の装備は自軍よりも優秀だったし、達人だの名人だの褒めそやされた俺の剣術を超える軍曹の言葉を俺は素直に聞いたし、他の兵達も同じだった。



『『『御国のために!!!』』』


 この部隊だけでなく、全ての兵達が、国を、故郷を、家族をために集まり、戦っていた。

 しかし、軍部の彼我の戦力差を考慮しない精神論のせいで多くの兵達が散っていくこととなっていた。



 俺の居た部隊、軍曹の指揮する部隊は違った。


 過信も慢心もせず、卑怯と言われようが常に相手よりも有利な状況で戦おうと、虚を突き、罠を張り、時には

 常勝する軍曹の部隊が激戦地に、最前線に配置されることが多くなるのは仕方のないことだった。

 しかし、軍曹の指示をすれば無駄死になどとは無縁だった。




 そう……忠実に遂行すれば、ね。




 ーーーーーー




「おほほほほ。これは珍しい。男性の方で、兵士さん。よほど、の人生だったのでしょう」


 軍曹がを見殺しに出来なかった俺が、守り助けに行った時に、凶弾に倒れて死んだはずだった。

 目が覚めると、目の前に敵軍の戦車を数台、集めても足りないくらいの巨亀が森の中で鎮座していた。




「ああ、でしたか。感謝してください。ボクは偉く、賢い上に勤勉なので。シライシさんの国が、覚えていますよ。シライシさんが参戦した第一次世界大戦ではけど、その後の第二次世界大戦で___


 訳も分からず、慣れ親しんだ形状の日本刀武器”ムラマサ”を手に人里を目指していると、案内に憑けられた精霊ジンリンのシンとかいう亀のモノノケから語られる。

 俺や同僚が命懸けで守ろうとした国が、故郷が、家族が、どうなったのかをのように、歌い上げるように、語られる。




 ___。それは徹底的に」


 ……街まで送ってもらう恩が有るので見逃すが、もう一度、会えたら痛い目を合わせてやると誓ったね。




 ーーーーーー




「何故シライシ殿は、そこまでの実力が有りながら行き倒れに? ”迷い人ミィーレェン”でも妖魔ヤオモの素材の買い取りはしてくれますから、日々の生活口にノリは出来るはずでしょう?」


 世話になった灰鼠フゥイシュ族というネズミの獣人の少女・ツァィ。

 故郷くにに残してきた妹に、どことなく似ているので目を掛けていたら親しくなっていた。


「俺の剣術の神髄は”後の先”。いわゆる、守りの技だね。国を、故郷を、家族をために使ってきた。守るものが無くなった俺は、使のさ」


 例え、自分が死のうとも使わない。

 こんな所で、のうのうと第二の人生を送ってしまって、家族に、共に戦った同僚達に申し開きが出来ないからだ。



「私達のために使ってくださるのは、私達を”家族”と思ってくださるのですね。兄上が増えたようで、嬉しいです」


 今生で、俺に親切にしてくれたバン達家族の為に、ツァィの為に___



 ___この命に掛けても、守ろうと誓った。




 ーーーーーー

 ーーーーー

 ーーーー

 ーーー


 ーー


 ー






「んぐぐぐぐぐ!!!」


 外の官憲達の気配、大立ち回りをするであろうツァィが連れて来た者の動向を探りながら過去を思い返していた。

 自分のが迫っていることで感傷に浸っていた所を、猿ぐつわをさせた皇女人質の唸り声で現実に引き戻される。



「悪いことをしたね。金品を乗せた馬車のことを教えてくれた男は胡散臭かったし、運んでいる皇女中身を言わなかったからな。俺は反対したんだぜ?」


 俺の国でだって、”統治者天皇”に手を出せば一族郎党が根絶やしだ。


「だが、そこまでアンタが大物なら。恥と非礼を忍んで、頼みが有る。”黄巾フゥァンジン党”で、をしていたのは。バン達を死刑にだけはしないでくれるか?」


「んぐぅ!?」


 何を言い出しているのかと、驚いているのかは分からないが”話”だけなら聞く姿勢に見えた。



「貧困が原因でね、盗みをしていたよ。そこまでなら良かった。……ある時、”銃”をね。何丁か、盗みに入った店から盗ってきた。と思ったね。人を殺せない種族だからと思っていたら、


 このまま行ったら後戻り出来なくなる。

 俺を助けてくれたバンとツァィ家族が永遠に離れ離れになる。


「だから、殺しは全部やった。俺が殺した。1度は終わった人生だ。家族の為に”罪”を全部は無理でも、決定的なモノだけでも背負いたい」


『それこそ受け入れられない! 俺達に”シライシ”を! 俺達の為に尽力してくれたシライシに全ての”罪”を押し付けろ、と言うのか!!?』


 扉を隔てた向こうで、バンがツァィの連れて来た男の提案を拒絶する声が聞こえて来た。

 こんな一度死んだ、国を、故郷を、家族を俺を守ろうとしてくれる家族のために、死ぬ覚悟は出来ている。



「ふぐぐぅ!!」


 驚いたことに、自分を誘拐した俺達の境遇になのか、お互いを思いやる俺達の心情になのかは分からないが、皇女が涙を流していた。

 誘拐されたことによる怒りや悲しみでなく、慈愛に満ちた表情から流される涙に、出来る限りしないという意思を感じられた。


「勝手な事だと思うかもしれない。バン達が無事に生きていくのを確認するまでは捕まるつもりは無い。ここから逃げるのにアンタを利用するかもしれないが、傷付けないと約束しよう」


 とめどなく溢れ出ている涙を拭いてやりながら、自分勝手な”願い”を押し付けていた。




「だから、簡単に捕まってやる訳にはいかないね。シン!!」


「大人しく捕まってください! 後はタイチさんが、してくれるはずですから!!」


 精霊を見ることが出来ない者が大半なので、【実体化】していないシンが部屋まで苦も無く入って来ていたのは分かっていた。

 ツァィが連れて来たタイチという男が、何処まで上手く出来るかは分からないが任せるつもりは無い。

 バン達が”死罪”になるというなら、この国を敵に回してでも、つもりなのだ。



 俺の殺気を受けて、【実体化】し【鎧】のようなものを身に纏って身構える。


【実体化】ソレをしないと俺に触れないから、一方的に斬られるだけだもんな。抵抗するのは分かるね。でも、は別問題だね」


 対するコチラは、何百、何千、何万と繰り返してきた必殺の構えを取る。


 腰を浅く落とし、左腰の”ムラマサ”を何時でも抜刀できるように手を添え、相手を見据え、踏み込む両足の指が地面を喰い破らんばかりに力を込める。

 様々な剣術を身に付けて、一番に身体に馴染み、魂に馴染んだ必殺の剣術、その名を___



 ___【居合】!!!




「少しばかり、をみてもらうね!!!」






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