【詩歌集】無責任のR

清水らくは

Progressive五線

残り四線が逃げ出した

上 真ん中 下

三つしか表せない

音符たちは戸惑っている

ト音記号は笑っている

「串刺しも一本なら我慢できるわい」

そうですか


仕方ないのでできることをする

はいはい こっちこっち

まずは様々な長さの音符

シャープにフラット

クレッシェンド デクレッシェンド

時折アフタヌーンティー

出来上がったものはそれなりだ

がんばったけれど

所詮それなりでしかない


音楽は安定に安住して安易にアンドゥ

やはり世界には五線が必要だった

ぐっと力を入れて線を伸ばした

地球を一周してずれたのが二本目

銀河を一周してずれたのが三本目

宇宙を一周してずれたのが四本目

存在論を何周もして

ようやく隙間を見つけて忍び込んで

綻びから新しく顔を出したのが五本目


楽譜は元通りになった

音楽も輝きを取り戻した

「また串刺しになってしもた」

ト音記号だけは不満そうだが

音符たちは満足そうだ

整頓された音楽は

世界を安定させている

そしたら急に虚しくなって

こっそりと逃げ出してしまった

シャープにフラット

クレッシェンド デクレッシェンド

記号たちがついてきた

また何か おもしろいことをしようか



(「無責任」第一号より)

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