デート編9-2
今日は神無とのデートの日。ついでに言うと、両親と神無と僕の4人でご飯を食べる日でもあるが、そっちははっきり言ってどうでもいい。
普通に考えれば、彼女を親に紹介するというのは、かなり緊張することだ。
でも、文化祭のときに母さんと父さんは神無に会っているし、昨日の電話で神無が彼女になったことも知っているので、それほど緊張する必要はないかな。
そんなことより彼女との初デートの方が何倍も緊張する。
結局デートプランは神無がかなり練ってくれていたので、そこから選ばせてもらった。
午前中に映画に行き、カフェでご飯を食べた後に水族館に行くというプランだが19時からは母さん達とご飯を食べるし結構慌ただしい予定になるような気がする。
神無の提案で現地集合になったので準備をして目的地まで行く。
別に寮から二人で行っても良かったけど、女子寮から一緒にデートに行くのは雰囲気が出ないからそうしたのかな?
映画館は寮から数駅しか離れておらず、寮からは歩きと電車合わせて20分ほどで着く。
待ち合わせ場所である映画館の前には予定通り10分前に着いたが既に神無がいた。
しかも見知らぬ金髪の男と一緒に。
「神無、待たせてごめん」
「おお、お姉さんも美人さんだね。この子の連れ?」
一瞬神無の知り合いかと思ったけどこの子と言ったということはただのナンパ野郎か。
それなら、適当にあしらって大丈夫そうだ。
「そうですけど。じゃあ私たちはこれで」
「えーいいじゃん。お姉さんも一緒に遊ぼうよ」
僕と神無の肩を触りまだ馴れ馴れしく付いてこようとする。神無みたいに可愛い女の子は毎回こんな目に合っているのか。まあ男のぼくもなぜかナンパされているが。
林檎を砕けそうな力で神無に触れているナンパ男の手首を握る。
「痛ってぇ!?」
「本当に興味無いんで他当たってもらえますか?」
目が笑っていない笑顔を向け、手を離すとナンパ男は一目散に逃げて行った。
「ごめん。僕が遅くなったせいで変なやつに絡まれたね」
「私が早かっただけ」
「いや、神無がナンパされるのは嫌だし今度からはもう少し早く来るよ」
「うん」
ナンパを撃退してやっと落ち着いて神無の方を見ると、今日の神無は初めて見る全身黒のワンピースで神無の白い髪と肌に良く似合っている。軽く化粧もしていていつもの3割増しくらい可愛く見える。
照れるから神無には言えないけど。
これだけ可愛いければナンパされるのもわかる気がする。
まあ、だからといってナンパしてきたやつを許すわけではないが。
「褒めすぎ」
神無は僕から目を離して、一言だけ呟いた。完全に忘れていたが、考えてたことがわかる神無には言葉に出さなくても伝わってしまう。まあ本心で思っていることだし伝わってもいいか。
どうせ伝わってしまうなら言葉に出したほうが良いかな。
「その服似合ってて、可愛いよ」
「うん、ありがとう。優、その格好…」
神無は一瞬照れていた気がしたがすぐに表情を曇らせた。まあいつも通り表情がわかりづらので、もしかしたら気のせいかも知れないけど。
「この格好?いつもの服だけど?」
「いや、なんでもない。優も可愛いよ」
「うーん、あんまり嬉しくないけどありがとう」
「行こ」
神無は僕の手を引き、映画館に向かった。
今日見た映画は煙突村のバベルという、絵本が原作のアニメ映画だった。
僕はギリギリ泣くことはなかったが、ラストのシーンは感動的で、ほとんどの観客が涙を堪えることができないほどだった。
かなり面白かったと思うけど、神無の表情は暗く見える。神無にはあまり合わなかったのかな。
「神無は映画楽しめなかった?」
「感動したよ」
最近、少しずつだが神無の表情がわかってきた僕にとっては神無が何かに不満を持っていることはわかった。
「なんか今日機嫌悪くない?」
「別になんでもない」
「神無、僕は考えてることをいくら見られても全然嫌じゃない。でも神無が何かを我慢しているのは凄く嫌だ。だから僕のことで何か我慢していることがあるなら教えてほしい」
「デートだから男の子の姿で来てほしかった…」
「え?」
「私の家に来たときみたいに男の子の格好してほしかった」
めちゃめちゃ可愛い理由で不機嫌だった。だから寮で待ち合わせじゃなくて現地集合にしたのか。前に神無の家に挨拶しに行った時みたいに駅のトイレとかで僕が男の姿に着替えられるように。
「ごめん、学校の人もいるかも知れないし男の格好はできなかったんだ。でももっと遠出して男の子の格好すれば良かったね」
「いや、私も言えば良かった」
「じゃあ寮に帰ったら男の姿でおうちデートしようか。僕も本当は男の姿で神無と会いたいし。それで許してくれる?」
「うん、許す」
かなり不安だったけど許してくれて、本当に良かった。
「じゃあデート再開しよっか。次は水族館だよね」
「ううん。服見に行く」
「あれ?水族館行くんじゃなかった?」
「それはまた今度にする。優の服選びたい」
「そっか。じゃあそうしようか」
カフェで軽く昼御飯を食べた後は、神無にショッピングモール中を連れ回されてめちゃめちゃ服を見てまわった。疲れたけど神無が楽しそうで安心した。
「満足した」
「良かった。じゃあ、駅行こうか。そろそろ母さん達との待ち合わせだし」
一事はどうなるかと思ったけど初デートは楽しかったし本当に良かった。あとは母さん達とご飯を食べるだけだし、もうトラブルが起きることもないだろう。
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