文化祭8-8
ついに今日は文化祭当日。堀江学園の文化祭は2日に分かれていて、一日目は一般公開の日だ。
一般公開と言っても誰でも入れるわけではなく、招待状を持っている親戚と友達しか入ることはできない。聡には招待状を送ろうかなと思ったけど、親族以外の男は友達でも入ることはできないということらしいので送ることができなかった。
そのため、僕は誰にも招待状を送ってないし、特に一般公開日ということを気にする必要はないかな。
生徒会の劇は一般公開無しの明日だし今日はそこそこ楽かもしれない。
まあクラスの出し物が喫茶店だから接客は今日の方が忙しいかもしれないけど。
僕のクラスは英国風の喫茶店をモチーフにしていて、服装もクラシックスタイルのメイド服を着ることになった。
誰かの家のメイドの服を持ってきて少し裾直しをしたと言っていたけど、これだけメイド服があるってどんな豪邸に住んでるんだ。
僕がメイド服を着て出て行くと教室がざわついた。
あれ、もしかして着方が間違っていたのかな。事前に裾合わせした時に着方とかは覚えたはずだったんだけど。
僕が焦っていると服飾担当の会田さんが寄ってきた。
「やっぱり身長がある方がロングスカートは似合うよね。やっぱり伊澤さんが接客班で正解だったよ」
一応着方は問題ないようで安心した。
男子では背が低めな僕は身長が高いと言われるのはちょっと嬉しくなってしまう。
すると、後ろで僕が出てきた時の倍くらいのざわめきが起きた。
見なくてもわかる。多分神無が出てきたんだろう。今神無とは目を合わせられないからちゃんと見ることはできないが絶対に似合っていると思う。
周りから可愛いとか綺麗とか聞こえてくるし本当は凄く見たいが仕方がない。
文化祭が始まり、下馬評通り僕達のクラスは大盛況だった。まあミスコン優勝者がいるって書かれているし、見たい気持ちはわかる。同じくミスコン優勝者の雪さんのところの男装喫茶も多分凄い人数が集まっているだろう。
接客をしていると、一般のお客さんが神無に絡んでいた。
「あらーあなた可愛いわね。お名前何て言うの?」
この甲高い声、なんか聞いたことがあるような。
「母さん!?」
「あら、優いたのね。休憩中とかかと思ったわ。この子も可愛いけど優もやっぱり可愛いわね」
「なんでここに?海外にいたはずじゃ。それに招待状渡してないけど」
「そんなの優愛に貰ったに決まってるでしょ。今長期休みで昨日から日本に戻ってきてたの」
ああ、姉さんか。そういえば教師も招待状を書けるのか。
「あなたのお名前は」
「十川神無...です」
神無が敬語を使っているのをはじめてみた気がする。
「優、ちょっと耳貸せ」
神無と母さんが話している横で父さんが手招きをして僕に小声で話す。
てか、父さんもいたのか。
「お前、あの子の父さんに会ったことはあるか」
「ああ、挨拶に行ったことはあるよ。大学の時の友達なんでしょ?」
「ああ、やっぱりあいつだったか。珍しい名字だったしお前と同じ年の子供がいるのは知っていたが。ここ10数年は会ってなかったが、かなり仲は良いな。それよりも挨拶ってなんだよ。お前あの子と付き合ってんのか?」
「いや、付き合ってないけど色々あって偽彼氏として挨拶に行ったんだよ」
「彼氏としてってことは男の格好で会ってるのか。まさかとは思うが今日ここにあいつは来ないよな」
「それはわかんないけど、来てもおかしくないと思うよ」
「アホか。街とかであったら気づかれないと思うが娘と同じクラスに彼氏と似た顔のやつがいたら流石に気づかれるだろ」
「あ、たしかに」
「そんなことでよくここまでバレずに済んだな」
「5人くらいにはバレてるけどなんとかなってるよ」
「そこの女の子以外にもそんなにばれてんのか。俺のころでも早苗と堀江にしかバレなかったのに」
「父さんの頃ってどういうこと?」
「なんだ早苗と堀江から聞いてないのか」
「ここは俺の母校だぞ」
「はぁ!?」
僕が大声で驚いたせいで教室にいたお客さんとクラスの人が一斉にこちらを見た。
「申し訳ありません」
すぐに我にかえりお客さんに謝る。
堀江って多分理事長のことだよな。前に理事長から聞いた女装していた知り合いって父さんのことか。
流石に世間狭すぎじゃないですかね...
「とりあえず、あいつが来たら接客を変わってもらうとかして何とかしろよ。他の場所ならまだしもこの教室であいつに会ったらめんどくさいことになるから俺達はもう出るわ」
「おい、そろそろ帰るぞ」
「えーもっと神無ちゃんとお話ししたかったのに」
父さんと小声で話している間ずっと神無と話していた母さんはまだ全然話し足りないようで名残惜しそうな顔で神無の方を見ている。
やっと父さん達が席をたち帰ったかと思ったらドアの前で固まっていた。
父さんの目の前には見覚えのあるごついおじさんときれいなお姉さんが教室に入ってきた。
神無の両親だった。
「おまえ、武司か?」
「ああ。久しぶりだな」
「お前久しぶりに会ったのになんでそんな嫌そうな顔してるんだ」
「ここじゃなければ、そこそこ嬉しかったんだけどな。とりあえずお前ちょっと来い」
「お、おい」
父さんは僕と同じような体型だし、中性的な顔をしているからとても強そうには見えないが実は細マッチョで空手の達人なので、力ずくでがたいの良い神無の父さんを軽々と教室から連れ出した。
残された母さんはちょっと慌てていたが、神音さんは特に慌てることもなく母さんに話しかける。
「お久しぶりです。早苗さん」
「ええ、久しぶりね神音ちゃん」
少し考えて母さんが口を開いた。
「神音ちゃんは全部把握してるってことでいいのよね」
「はい、大丈夫です」
神無のお父さんがいなくなったので母さん達の方に行く。
「あれ母さんたちも知り合いなの?」
「ええ、最近は会ってなかったけど優愛が小さい頃は良く十川夫妻とは遊んでいたわ。神音ちゃんが全部把握しているなら私たちはここで話していても大丈夫ね。優、もう一杯紅茶を頼むわ」
本心を言えば神音さんよりも母さんが口を滑らせて余計なことを言いそうだから帰ってほしかった。
父さんは何で母さんも連れ出してくれなかったんだろう。
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