後輩6-7

東雲さんが車で寮まで送ってくれている途中だが、控えめにいっても気まずすぎて死にそうなんだけど。


しかし、気まずいと思っていたのは僕だけだったのかあっさりと東雲さんは話し出した。


「麗様とキスしてましたね」

「いや、あれは」

「麗様とキスしてましたね」

「はい」


キスしてたというよりも、キスされたんだけど。


「麗様は海外生活が長かったのでキスは挨拶みたいなものですよ」


「あ、なるほど」


僕だけ気にしていたのか。自意識過剰にも程がある。あの一ノ瀬さんが僕に挨拶やお礼以外の理由でキスをするわけがない。


「まあ嘘なんですけど」


「何、その嘘!?」


「すみません、ちょっとからかいました。純粋に伊沢さんのことが気に入ったからだと思いますよ」


「気に入ったからキスって、僕一応男なんですけど?」


「キスって言っても頬っぺたじゃないですか。そんなに深い意味はないですよ」


まあたしかにそうなのかな。初めて女の子にキスされたからかなり意識してしまったけどやっぱり気にしているのは僕だけだったのかな。



「そういえば、麗様のSNS見ましたか?」


「いえ、見ていないですけど」


「凄いことになってますよ」


まさかあのキスの写真を間違って投稿して炎上してるんじゃ。

それはまずい、僕の命が。あんなの載せられたら一ノ瀬さんのファンに袋叩きにされる。


一ノ瀬さんは芸能活動を本名でやっているので調べたらすぐに出てきた。


SNSを確認すると僕と撮った写真が何枚かアップされているだけでたいした問題はないように見える。


「変な画像とか出てないと思うんですけど」


「いえ、そこではなくリツイートといいねの方を見てください」


言われた通り見てみると、その写真に対してえげつないくらいのリツイートといいねがされていた。


男か女か論争も勃発していて、男だったら許さんとか男だったとしてもすこ

、普通に女だろ、女の子以外に見えないなど色々なツイートがされていた。

いやいや、一ノ瀬さんのツイートにジェンダーレス男子って書いてあるだろ。


しかも二人とも撮影が終わってすぐに撮ったので一ノ瀬さんの化粧は僕がしたものだ。それについての反響もかなり多く概ね好評で安心した。



「凄い反響です。これは評判が悪いということはなさそうですね」


東雲さんが軽く笑いながら運転をしている。


評判が悪ければこの撮影で終わり、良ければ次もやってもらうという条件だったがこの感じを見ると、次もありそうな気がする。僕としては手を抜くのは誘ってくれた一ノ瀬さんに失礼すぎるので全力でやって、微妙な結果だったというのが一番よかったんだけどそうはいかなかったらしい。


まあその後の活動があるかどうかの最終判断はサイトに僕の写真が載ってオンラインショッピングの売れ行きを見てからだろう。


逆にそれまでは考えてもしょうがないから少なくとも一週間は平穏が訪れるな。


一週間?何か忘れてることがあるような。


「やばっ」

「ど、どうしましたか」


突然僕が大声をだしてしまったので、東雲さんを驚かせてしまった。


そういえば、生徒会の役員を発表するのは次の水曜日の生徒総会じゃないか。

これはまずい。モデルの話と一ノ瀬さんに男ばれした問題が大きすぎて完全に頭から抜け落ちていた。

まだ誰も誘っていないのにあと4日程度でなんとかなるものなのか。


「すみません、ちょっとまずいことを思い出してしまって」


「何を思い出したんですか?」


「いや、実は…」


僕は東雲さんに生徒会の役員を集めるのを忘れていたこととその期日が4日後の水曜日だということを伝えた。東雲さんに言ってもしょうがないが、愚痴を聞いてほしくてついつい言ってしまった。


「それは何人集めるんですか?」


「副会長、書記、会計は必ず必要なので3人は集めないといけないですね。総務は何人いてもいい決まりになっているので多い分には何人でもいいです」


「なるほど、生徒会役員はかなり忙しいものなのですか?例えば部活と一緒にやるには不可能とか」


「生徒会長は忙しいと聞きますが役員はなんともいえないですね。僕の前の生徒会は生徒会長以外は部活もやっていたようですし」


まあ生徒会長はvtuberをやっているから部活どころではない忙しさだったんだけど。


「なるほど、では放課後に多少予定がある人でも生徒会はやれるってことですね」


「ええ、一応できると思います。僕が全力でフォローしますし」


「では麗様はいかがでしょうか」


「え、一ノ瀬さんはかなり忙しいと思いますが。それに一ノ瀬さんからしたら受ける理由が全くないと思います」


「大丈夫です。私に任せてください。月曜日に麗さまと二人っきりになれるところってありますか?」


「生徒会室なら二人っきりになれますけど。僕が鍵を持っていますし」


「では、月曜日の昼休みに、生徒会室で待っていてください。麗様には私から場所と日時と簡単に内容も伝えておきますので」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


東雲さんは本当に頼りになるな。僕も他のメンバーを頑張って探さないとな。

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