生徒会長編5-7

今は選挙当日の昼休み。あと30分程で選挙が始まるが僕は理事長室の前にいる。


ノックをして返事があったので理事長室に入る。


「久しぶりね」


「はい、お久しぶりです」


理事長は相変わらず若いな。30歳くらいにしか見えないが僕のお母さんと同い年ということは今年で50歳なんだよね。


「頼まれてたもの用意したわよ。でも、よくこんなの知ってたわね」


「僕の実家で見たことがあったので」


「あーあなたのお母さんのやつね。懐かしいわ。でも選挙にこんな小道具を使うなんてよく考えたわね」


「本当は話だけにしようと思っていたんですけど実物があった方が説得力があると思ったので」


「確かにそうね。どういうながれでこれを使うかは知らないけど頑張ってね」


「はい、頑張ります」


僕は目当ての物が手に入ったので足早に理事長室から出て、その足でそのまま体育館に向かった。


生徒会の人達や先生方が準備をおこなっていて、何人かの立候補者はすでに体育館にいた。


ここで全学年の目の前で話すのか。

さっきまで全然緊張していなかったのに発表する場所を見たら急に緊張してきた。


僕だけは落選すると退学なので、他の立候補者よりも緊張するのも無理はないだろう。


「優、大丈夫?」

「うわっ、ああ、神無か」


神無が後ろから急に抱きついてきて思わずびっくりしてしまった。いつのまに体育館に来ていたんだ。


「ぼーっとしてたけどどうしたの?」

「ちょっと緊張しちゃって。神無は緊張してない?」


「私は大丈夫。優もいつも通りやれば大丈夫」


本当に彼女は頼りになるな。なぜか彼女に大丈夫と言われると大丈夫な気がしてくるから不思議だ。


それから少しの間神無と話していたらかなりリラックスすることができた。


生徒会選挙が始まりしばらく他の人が演説をした後にいよいよ僕たちの出番になった。


生徒会長に神無が呼ばれる。


「2年2組伊澤優さんの推薦人の十川神無さんよろしくお願いします」


推薦人が立候補者の前に話すので先に神無が壇上に上がる。


神無が壇上に上がると神無のファンらしき人から小さい歓声があがった。


神無はそれを全く意に介さず話し始める。


「2年2組伊澤優の推薦人の十川神無です」


「私が伊澤さんを推薦した理由は彼女がどんな人間にも分け隔てなく接することができる人間だからです」


神無は銀色の髪をさわりながら決心するかのように言葉を絞り出す。


「私はこの通り、髪の色や目の色が他の人とは明らかに違います。それにも関わらず、伊澤さんは他の人と私を特に区別したりせず。最初からずっと優しく話してくれました。まだ伊澤さんがこの学校に来てから1か月ほどしか経っていませんが、私は伊澤さんのおかげで学校や寮の生活が楽しくなりました。

そんな彼女が生徒会長になることができれば先輩や後輩、独特な感性を持つ人など、色々な人の意見を真摯に受け取って、全校生徒が今よりも楽しい学校生活をすごせると思います。

是非彼女に清き一票をよろしくお願いします」


神無が話し終わり礼をすると拍手が体育館中に響いた。


壇上から降りてこちらに向かってきた神無は僕の耳元で小声でつぶやく。


「ここまで言ったんだから絶対勝って」


「ありがとう。勝つよ」


神無が照れているのをはじめてみた気がする。


神無の演説は他の推薦人よりも短かったが、神無にしか言えないことが短い文章に詰まっていて一番印象に残る演説だった。


ここまで神無が頑張ってくれたんだ。僕も全力で頑張ろう。


神無が席に座ったのを確認して、生徒会長が僕の名前を呼ぶ。


「生徒会長立候補者の2年2組伊澤優さん、よろしくお願いします」


「只今ご紹介に預かりました2年2組の伊澤優です。


私が生徒会長に立候補した理由は生徒にとってより良い学校にしたいと思ったからです。


現状、この学校の中で最も生徒に評価されているのは制服についての校則の緩さだと思います。


みなさん知っての通り、制服はブレザーとスカート、白のブラウスくらいしか指定はなく、靴下などは自由でスカートの長さなども特に指定はありません。


これは他の学校に比べてかなり緩く生徒の自主性や常識に任せられています。


しかし20年ほど前のこの学校の制服はスカートの長さなどが決められていて、さらにこのようなネクタイがありました」


僕はスカートのポケットから先ほど理事長から借りたピンク色のネクタイを取り出し慣れた手付きでネクタイを結んだ。


「はっきり言って今見た多くの人がこのネクタイをいらないと感じたのではないかと思います。


このネクタイは30年程前に私たちの先輩が全校生徒の9割以上の署名を集め学校側に撤廃を求めたものです。それに加えてその時代にスカートの長さの規定などもなくなりました。


今、一番生徒にとって評価されているこの制服も先代の生徒が動いた結果良くなったものです。


このように生徒が動けばより良い方向に変えることができます。


しかし裏を返せば、意見しなければ何も変えることはできません。


なので、私は学校側に意見します。動きます。


そのため公約については全校生徒の意見を取り入れやすいものにしました。


1つ目は修学旅行の行き先の内容を投票により決めます。


2つ目は食堂のメニューの追加の内容を投票により決めます。


3つ目はリクエスト箱の設置をします。


1つ目、2つ目の修学旅行の行き先と食堂メニューの内容を投票で決めるというのは、先ほどお話ししたように生徒主導で学校生活がより楽しくなれるようにと考えて公約として掲げました。


しかし、私の考えだけではよりよい学校生活を送るためのアイディアには限度があります。


なので皆さんの意見や考えを教えてほしいです。


そのためリクエスト箱というものを設置します。


現在の生徒会では目安箱というものが存在しています。ですが目安箱はあくまで校則や部費に関しての質問が多くその質問に答えて終了というケースが大半で、あまり有意義なものではありませんでした。


私が今回設置したいと考えているリクエスト箱は質問ではなく意見を求めます。その中で意見の多いものや学校生活がより楽しくなるような物は月一回ある全校朝礼の時に発表し、その後全校生徒の投票により意見を取り過半数を越えたものは実現します。


これらの公約を達成していきながら生徒一丸となってより良い学校にしたい、いや絶対にします。そのチャンスを私にください」


伝えたいことは全て言えたので一礼して「ありがとうございました」と言い壇上から降りると拍手が体育館中に響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る